Minimal high angle view at African American software developer working with computers and data systems in office

AIを使える人材から、AIとともに仕事をカイゼンできる人材へ ー「問い」と「経験知」を軸に考えるAI時代の人材育成

田村直剛
キンドリルジャパン 執行役員 マネージングパートナー AI事業開発室長


AIによって、短時間で多くの情報を分析し、仮説や回答案を得ることが可能になりました。答えを得ることが容易になる一方で、人に求められる力は変わりつつあります。何を問うべきかを見極め、AIの答えを現場の文脈で判断し、仕事の改善につなげる。AI時代には、こうした人の役割がこれまで以上に重要になります。 

キンドリルのピープル・レディネス・レポート2026では、日本企業の87%が、AI導入のスピードが人材、ガバナンス、運営モデルの適応を上回っていると回答しました。一方、AIを効果的に活用するための人材が十分に整っていると回答した企業は22%にとどまっています。 

AI時代の人材に求められるのは、AIを使うスキルだけではありません。AIのアウトプットを問い直し、現場の文脈に照らして評価、判断し、仕事の継続的な改善につなげる力が必要です。組織には、「AIを使える人」を増やすことから、「AIとともに仕事を改善できる人」を育てることへの転換が求められています。 

AIは回答案を出すが、問題を発見・定義するのは人である

AI時代の人材育成の出発点となるのが「問い」とその質です。 

AIは多様な答えを提示できます。しかし、何が本当の問題なのかを定義することは、人の役割です。問いが曖昧であれば答えも曖昧になり、問いが表面的であれば得られる示唆も表面的なものにとどまります。 

例えば、「売上を伸ばす方法を教えてください」とAIに問えば、一般的な施策は返ってくるでしょう。しかし、その前に「なぜ売上が伸びないのか」「なぜ顧客が離れているのか」「なぜ現場でそのプロセスが滞っているのか」「なぜその業務が必要なのか」と、問いを深めなければ、自社の事業ドメインや顧客価値、現場に即した本質的な答えにはたどり着けません。 

AIに対するプロンプトも同じです。良いプロンプトとは、うまく文章を書くことではなく、現象や問題の奥にある構造を捉え、本質的な課題をAIに投げかけることです。AI活用におけるプロンプト力とは、言い換えれば問題発見力であり、真因を探る力でもあります。 

私は長年、製造業をはじめとする多くのお客様のIT現場に携わってきました。この「問い」の質を洗練させるうえでは、トヨタが重視してきた「なぜなぜ」を繰り返して真因を追求する姿勢、「現地現物」、そしてカイゼンを積み重ねるという考え方が、AI時代の人材育成にも重要な示唆を与えてくれると考えています。 

「問い」の質は、現場と人の内省能力によって高まる

では、問題発見力、すなわち質の高い「問い」はどこから生まれるのでしょうか。その源泉となるのが、現場を知ることと、人の内省能力です。内省とは、自らの経験、知識、判断、価値観、思考の癖を振り返り、そこから学びを得る力です。自分が何を見て、何を見落とし、どのように判断したのかを問い直すことです。「現地現物」は、机上の議論だけでなく、実際の現場に足を運び、事実を見ることを重視します。現場には、データだけでは見えない違和感や、手順書には書かれていない工夫、顧客との関係性、作業者の判断が存在します。現場で見たこと、経験したこと、感じた違和感を内省し、それを問いとして言語化する。この現場と内省を往復しながら、「なぜを繰り返すこと」が問いの質を高め、AIから得られるアウトプットの質も高めます。つまり、AI時代に求められる人材とは、AIの技術と方法論に詳しい人だけではなく、現場を観察し、自分の経験を振り返り、本質的な問いへと昇華できる人です。

AIのアウトプットを評価するのも人の経験知である

もう一つ重要なのが、AIが出したアウトプットを評価するための「経験知」です。AIはもっともらしい答えを生成できます。しかし、その答えが本当に正しいのか、現場で実行可能なのか、顧客価値につながるのか、見落としているリスクはないのかを判断するには、人の経験知が必要です。 

ここでは、AIのアウトプットを評価するための経験知を次の3つの要素を組み合わせた判断基盤として捉えます。 

  • 形式知:マニュアル、手順書、標準作業、過去の報告書、業務ルールなど、言語化され共有可能な知識 

  • 暗黙知:熟練者の勘、違和感、現場感覚、顧客との関係性、過去の経験に基づく判断など、簡単には言語化できない知識 

  • 思考力:情報を構造化し、仮説を立て、因果関係を考え、複数の選択肢を比較し、本質を見抜く力 

AIの回答をそのまま受け入れるのではなく、「この前提は正しいか」「現場で実行できるか」「顧客にとって価値があるか」「別のリスクはないか」と問い直す。AIのアウトプット品質を高めるのが人の問いだとすれば、そのアウトプットを価値に変えるのが経験知です。この理解こそが、人とAIの協働を考えるうえで重要な出発点になります。 

そして、「問い」と「経験知」をつなぐのがカイゼンです。人が問いを創り、AIが回答案を生成し、人が経験知で評価し、評価結果をもとに問いを修正し、より良いアウトプットへつなげる。この循環は、まさにAI時代の「カイゼン」です。AIを単なる効率化ツールとして捉えると、人はAIの答えを待つだけの存在になってしまいます。しかし、AIをカイゼンのパートナーとして捉えると、人は問いを創り、評価し、改善を導く主体になります。ここに、人とAIの協働の本質があります。 

人材育成は「AIを使える人」から「AIと改善できる人」へ

AI時代の人材育成は、AIツールの操作方法や開発手法を教えるだけでは不十分です。重要なのは、事業ドメインの知識を土台に、AIとともに考え、その答えを評価し、改善につなげる力を育てることです。

そのためには、次の4つの育成アプローチが重要だと考えます。

  • 「なぜ」を問う習慣を育てる。問題が起きたときに、すぐに解決策へ飛びつくのではなく、なぜその問題が起きたのか、本当に解くべき課題は何かを考える力を養う必要があります。

  • 現地現物を重視する。AIに入力する情報は、現実の業務や顧客、現場に根ざしていなければなりません。現場を知らない問いは、現場で使えない答えを生み出します。 

  • 経験知を言語化し、継承する。熟練者が持つ暗黙知や判断基準を、可能な限り形式知化し、組織として共有、継承することが重要です。AI時代には、AIの答えを評価するための知識がより重要になります。

  • カイゼンのサイクルを回す。AIを思考の壁打ち相手として活用し、仮説をぶつけ、反論を求め、リスクを洗い出し、別の視点を提示させます。そのうえで、問い、アウトプット、評価、改善のサイクルを組織の習慣として定着させることが重要です。

AI時代の競争優位は、人づくりに宿る

AIが答えを容易に生成する時代だからこそ、人には何を問うべきかを見極める力が求められます。AIが多様な選択肢を提示する時代だからこそ、現場と経験知に基づいて答えを評価し、改善を続ける力が組織の競争力を左右します。 

AI時代の人材育成で目指すべきなのは、「AIを使える人」を増やすことだけではありません。現場を理解し、問いを立て、AIのアウトプットを評価し、AIとともに仕事を改善し続けられる人材を育てることです。 

人が問い、AIが可能性を広げ、人が経験知で評価し、次の問いとカイゼンにつなげる。その循環を組織の習慣として根付かせることこそ、AI時代における人材育成の本質だと考えています。 

トピックス
関連サービス