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AI活用の壁は、技術の導入ではない -日本企業がAIとの協働を競争力に変える条件-

山井康浩
専務執行役員 キンドリルジャパン コンサルト・プラクティス事業統括本部長


生成AIからエージェンティックAI(自律型AI)へと進化するなか、企業に問われているのは、人とAIの役割や意思決定、責任やガバナンスのあり方を見直し、業務の仕組みそのものを再設計することです。人材、組織、業務プロセス、IT基盤を含むこの変革が、今、重要な経営課題となっています。

日本企業のお客様と対話するなかで、AIの本番導入に向けた課題の一つとして見えてくるのが、長年の業務運用を通じて蓄積された判断基準、データ、例外処理が、人、プロセス、既存システムに分散していることです。日本企業にとってAI実装の難しさは、ルールや知識が不足していることではなく、長年の業務のなかで蓄積されたそれらを、AIが参照・実行できる形にし、人とAIの役割を再設計することにあると考えます。 

日本の企業が PoC(概念実証)を超え、AIを具体的なビジネス成果につなげるために必要なことは何か。本稿では、企業のルールとAIの行動を結び付ける「ポリシー・アズ・コード」と、人とAIの協働を設計する新しい役割「ヒューマン・システムズ・アーキテクト」という二つのアプローチから考察します。

 

AIの「導入」から業務への「実装」へ

AIの活用領域は、チャットボットや文書生成から、顧客対応、リスク分析、調達、IT運用などへと広がり、現在では AIエージェントが業務プロセスの一部を自律的に実行する段階へと進みつつあります。

それに伴い、企業が検討すべき項目も変わります。どこまでをAIに任せるのか。どこで人が判断するのか。例外時には誰に判断を戻し、誰が説明責任を持つのか。 PoCではAIの能力や精度を検証することが中心ですが、本番業務では、人とAIの役割、権限、責任をあらかじめ設計しておくことが重要になります。

日本版キンドリル・レディネス・レポート2025では、日本企業の68%がAIについて「検証・実験段階」にあると回答しています。一方、ピープル・レディネス・レポート2026の日本の調査では、87%がAI導入のスピードは人材、ガバナンス、オペレーティングモデルの適応能力を上回ると回答しました。AIを試す段階から本番業務へ移行するなかで、テクノロジー以上に、人と組織の準備、すなわちピープルレディネスが問われています。 

ポリシー・アズ・コード ――「人が守るルール」から「AIが実行するルール」へ

AIエージェントの自律性が高まるほど、企業の意図やガバナンス方針から行動が徐々に逸脱する「エージェンティック・ドリフト」のリスクも高まります。特に規制産業では、AIの判断や行動について説明可能性、監査可能性、透明性、一貫性を確保することが不可欠です。

そのための一つのアプローチが、ポリシー・アズ・コードです。企業の業務ルール、社内規程、コンプライアンス要件、規制要件を情報として形式知化し、更にAIが解釈できる形式に整形したポリシーを機械が読み取り、その行動をあらかじめ定めた範囲で制御します。ガバナンスを「人が守るもの」から「AIの行動に組み込んだルール」へと変える考え方です。

前述したように、日本企業のお客様と対話するなかでも、ベテラン社員が長年の経験に基づいて行っている例外処理や、部門や取引条件によって異なる承認基準など、多くの判断基準が人や業務プロセスの中に暗黙知として蓄積されているケースがあります。これらを明らかにし、AIが実行できる形にすることは、AIを統制するだけでなく、企業が蓄積してきた業務知識を組織の知として活用し、継承できる形にすることにもつながります。

そして、ポリシーは一度定義すれば終わりではありません。AIの行動を継続的に監視し、規制や企業方針の変化に応じて更新する必要があります。設計から運用までを一体で捉えることが、エージェンティックAIを本番業務で使い続けるために重要です。

ヒューマン・システムズ・アーキテクト――人とAIの協働を設計する

ポリシー・アズ・コードがAIの行動をルールで統制する仕組みだとすれば、ヒューマン・システムズ・アーキテクト(HSA)は、人とAIが協働する仕事の仕組みを設計する役割です。

HSAは、業務、組織、人材、テクノロジーを横断し、人とAIの役割分担や意思決定、責任のあり方を設計します。重要なのは、AI導入後に人の働き方を合わせるのではなく、構想段階から業務、人事、リスク・コンプライアンス、IT、現場が参加し、AIを前提とした業務のあり方を設計することです。

本番実装では、業務の実態や長年培われてきた現場の判断を設計に反映する必要があります。多くの日本企業には、すでに現場が持つ暗黙知や例外処理の知恵が豊富にあるので、HSAが現場に蓄積された知識、意思決定の流れを明らかにし、人とAIがそれぞれの役割を果たせる仕組みを設計するというアプローチが有効でしょう。

経営者に問われる「実装の設計」

AIを本番業務に組み込むためには、ポリシー・アズ・コードによって企業のルールとAIの行動を結び付け、HSAによって人とAIの役割や責任を業務の仕組みに組み込み、これらを継続的に運用・改善していくことが重要です。

つまり、AIを本番業務に実装するとは、テクノロジーを導入することではなく、ビジネス上の目的を起点に、業務、人材・組織、ガバナンス、IT基盤を一体として設計することなのです。

AIへの投資を事業成果につなげるには、AIそのものへの投資と同時に、それを受け入れ、使いこなし、変化し続けられる人材と組織への継続的な投資が必要です。 AI時代の競争力は、最も高度なAIを持つことではなく、信頼できるAIと、変化に適応しながらそれを使いこなす組織を同時に実現できるかどうかにかかっています。

山井康浩 (Yasuhiro Yamai )

専務執行役員 キンドリルジャパンコンサルト・プラクティス事業統括本部長

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