AIの進化により、企業にはこれまで以上に迅速な意思決定や高度なインテリジェンス、俊敏な事業運営が求められています。一方、多くの企業では、現在の変化のスピードを前提として設計されていない既存のIT資産が変革の足かせとなっています。
最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)は、ミッションクリティカルなシステムを止めることなく、基幹システムのモダナイゼーション、AI活用の加速、そしてレジリエンスの強化を同時に進めるという難しい課題に直面しています。こうした課題の規模と複雑さ、そして今日のグローバルなIT環境を踏まえると、モダナイゼーションの成功には、ハイパースケーラー、ソフトウェアプロバイダー、業界のスペシャリストなど、多様で緊密なエコシステムが重要になります。ソリューションの共同開発や知見の共有、イノベーションの加速、ビジネスプロセスの俊敏性を高めることなど、アライアンスエコシステムがもたらす価値は広がっています。しかしその価値を最大限に引き出すためには、パートナーのエコシステム全体が連携して協力することが前提となります。
そのためには、ケイパビリティやパートナーシップを横断的に「オーケストレーション」することが不可欠です。優れたモダナイゼーションのオーケストレーターは、共通の目標に向けてパートナー間の連携、複数のテクノロジーのエンド・ツー・エンドでの統合、実施順序の整理、依存関係の管理、そしてプロジェクト全体の説明責任の維持を支援します。
本稿では、適切にオーケストレーションされたテクノロジーエコシステムが、どのように企業価値を高めるのかを考察します。
AIエージェントが加速するモダナイゼーションが変革の経済性を変える
エージェンティックAIは、複雑なアプリケーションやインフラ環境を分析し、数百万行におよぶプログラムコードや組み込まれた業務ロジックを解読しながら、システムの依存関係の可視化、テスト、さらには最新のアプリケーションやアーキテクチャーの生成まで支援できます。これにより、変革に要する期間を短縮し、エラーを削減させるとともに、より予測可能な成果を実現します。
AIエージェントを起点としたモダナイゼーションは、一度限りの取り組みではなく、継続的に学習する仕組みを生み出します。あるプロジェクトで得られたパターン、モデル、リファレンスアーキテクチャー、再利用可能な資産などは、その後の運用や将来のモダナイゼーションに活用することで、一貫性と予測可能性を継続的に高めることができます。CIOやCTOにとって、この継続的なモダナイゼーションモデルは、持続的な価値創出への道筋となります。大規模なシステム刷新の頻度を抑え、技術的負債が事業成長の制約となる前に管理するだけでなく、AIを活用したイノベーションのための基盤を構築、強化することができます。
さらに、モダナイゼーションの経済性も大きく変えます。変革期間の短縮によって、旧システムと新システムを並行稼働させる「ダブルラン」のコストが削減されます。その結果、モダナイゼーションのスピードが向上し、より予測可能で、運用に根ざした、継続的な改善モデルへと進化できるのです。
アライアンスエコシステム:「統合」から「オーケストレーション」へ
複雑な企業環境では、モダナイゼーションは一度限りの取り組みとして完結することはほとんどありません。アプリケーションの移行には、ネットワークやクラウドの準備、セキュリティ管理、データモダナイゼーション、ID統合、組織変革、業界固有の要件への対応など、多くの要素が関わります。そして、それぞれの要素には異なるチームやパートナーが関与します。
今日のテクノロジーパートナーシップは、単なる製品やサービスの取引関係を超えたものへと進化しています。ソリューションの共同開発、知的財産の共有、共同投資、統合されたデリバリーモデル、共同でのGTM(Go-To-Market)活動など、協業の領域はますます広がっています。
ハイパースケーラーやテクノロジーパートナーは、資金やエンジニアリングリソースの提供、ソリューションへの共同投資、体系的な導入支援プログラムを通じた導入支援など、企業のモダナイゼーションにより深く関わるケースが増えています。CIOやCTOにとって、テクノロジーパートナーとの共同投資は、新技術の導入を円滑にし、投資の妥当性に対する確信を高めることにもつながります。これは、パートナーの役割が単なるテクノロジーやサービスの提供にとどまらず、お客様と目指す成果を共有し、その実現に向けて必要なリソースをともに投入するものへと進化していることを示しています。
こうした共同投資を適切なオーケストレーションモデルと組み合わせることで、企業は実行に伴うリスクを抑えながら、モダナイゼーションを加速させることができるようになります。
これからの10年、世界をリードするのは、最も高度なAIを持つ企業だけではなく、最も強力なエコシステムを構築し、それをオーケストレーションできる企業になるでしょう。
変革を成功に導く「オーケストレーター」の役割
このような状況で、企業がモダナイゼーションを進めるにはテクノロジーエコシステム全体に関する深い専門知識と幅広いパートナーとの関係を生かし、モダナイゼーションプロジェクトの設計、主導、実装までをリードする「モダナイゼーションオーケストレーター」の存在が重要になります。オーケストレーターは、それぞれのパートナーが持つ優れた能力を結集し、モダナイゼーション全体をエンド・ツー・エンドで連携させます。
したがって、モダナイゼーションにおける効果的なアライアンスモデルは、単なる商取引上の枠組みにとどまりません。それは、プラットフォームのイノベーション、実装力、業界特有の専門知識、運用の規律、そして成果に対する共通の説明責任を組み合わせることで、モダナイゼーションプロセスを加速し、価値創出を促進します。
これからの10年、世界をリードするのは、最も高度なAIを持つ企業だけではなく、最も強力なエコシステムを構築し、それをオーケストレーションできる企業になるでしょう。
優れたオーケストレーターは、テクノロジーのモダナイゼーションだけでなく、その活用、定着に向けた支援や、人材育成、ガバナンス、さらには組織全体のチェンジマネジメントを一体で推進することで、組織全体の準備態勢を高めます。
たとえば、キンドリルが最近支援した、規制の厳しい業界のあるグローバル企業は、膨大な数のレガシーコードと数十年にわたる技術的負債を抱えていました。同社はモダナイゼーションにあたり、アドバイザリー、クラウド、AI領域のパートナーエコシステムの強みを結集しました。AIエージェントがアプリケーションの刷新を加速する一方で、エコシステムの各パートナーがアーキテクチャー、クラウド運用、チェンジマネジメントの分野で専門性を提供し、モダナイゼーションを推進しました。
この結果として、リスクと運用コストを低減しながら、複数地域へ展開できる拡張性の高いモダナイゼーションのアプローチを確立することができました。この事例が示しているのは、継続的なモダナイゼーションの時代において、異なる強みを持つパートナーを結集し、相互補完的なケイパビリティを備えたエコシステム全体の「オーケストレーション」により、企業の競争優位が生みだされるということです。
ガバナンス、レジリエンス、そして信頼
エージェンティックAIがモダナイゼーションの実行を支えるようになると、CIOやCTOは、AIを活用したモダナイゼーションが、安全で、監査性が高く、説明が可能であり、企業リスク管理要件にも適合していることを確認できる仕組みが求められます。そのためには、データ処理、セキュリティ、人による監督、検証、コンプライアンス、そして事業継続性に関する明確な統制をモダナイゼーションの取り組みに組み込む必要があります。AIによって分析や実行を加速することはできますが、AIへの信頼を確立するためには、規律あるガバナンスと透明性の高い実行プロセスが不可欠です。
継続的なモダナイゼーションは、安定したシステム運用の維持、企業のレジリエンスの強化、明確なガバナンスのもとで責任あるAIの活用を行うこと、という3つの原則に基づいて行わなければなりません。
AI時代の継続的なモダナイゼーションに向けて
AI主導の世界において、継続的なモダナイゼーションは企業競争力を高めるための必須条件になりつつあります。この手法を取り入れる企業は、技術的負債を体系的に削減し、AI導入を加速させ、オペレーショナル・レジリエンスを高めるとともに、変化するビジネスニーズに迅速に対応することができます。
テクノロジーリーダーに求められるのは、モダナイゼーションを一時的な変革プロジェクトで終わらせることから脱却し、成果を起点とした、拡張性のあるエコシステムに支えられた、継続的なモダナイゼーションを企業の事業遂行力そのものへと進化させることです。AIエージェントを起点としたモダナイゼーションと、アライアンス主導のオーケストレーションを組み合わせることで、企業は事業を中断することなく、継続的な変革を進め、AI時代のビジネスに必要なテクノロジー基盤を構築することができます。