Blond businesswoman using laptop and talking with colleagues in office

事業を止めずに変革する――Run Transform Run

イノベーション、モダナイゼーション、セキュリティ&レジリエンシーの三位一体の改革をどう進めるか

企業のIT部門には、日々の業務やシステムを安定的に動かし続けることと、将来に向けて変革を進めることの両方が求められています。この二つは本来矛盾するものではありません。しかし現場では、「変革を進めようとすると運用への影響が懸念される」、「運用を守ろうとすると変革が後回しになる」という緊張関係がしばしば生まれます。キンドリルが掲げる「Run Transform Run」は、この二つの営みを対立させず、一つの循環として捉える考え方です。

最初の「Run」は、基幹システムやミッションクリティカルな業務を安定的に支え続けることを表しています。日々の運用を通じて、お客様のシステム、データ、業務プロセスを深く理解する。その理解の土台があるからこそ、次の「Transform」で、運用を止めることなく、何を、どこから、どのように変えるべきかを判断し、変革を実装することができます。最後の「Run」は、元の状態に戻ることではありません。変革した環境を新たな標準として運用し、そこから得られるデータや知見を次の「Transform」を進めるためにつなげる。つまり、Run Transform Runとは、事業を支える力と変革を進める力を交互に強化し合いながら、企業ITを継続的に進化させていく循環モデルです。

最大のチャレンジは「Transform」

この循環の中で、最大のチャレンジは「Transform」です。事業を止めることなく、いかに変革を実装しきるか。多くの企業にとって、変革は常に「今のオペレーションを乱さないこと」と、「将来の競争力を獲得すること」という、時間軸の異なる二つの要請の板挟みで進められます。

私はTransformを進めるための鍵は、「イノベーション」「モダナイゼーション」「セキュリティ&レジリエンシー」という3つのレバーに集約されると考えています。この3つは、企業が変革を語るときに必ず登場するテーマです。地政学の不確実性、規制・ガバナンス要求の高度化、ユーザー体験重視の潮流、技術変化の非連続性、そして深刻化するIT人材・知見の枯渇——こうした環境変化が同時多発的に押し寄せるなか、企業は顧客体験や事業モデルの変革を志向しながらも、現場では別の現実に阻まれています。具体的には、AIに使うデータが整っていない。レガシーアプリケーションが重荷となる。複雑なインフラが変革の足かせになる。セキュリティを強化したくても、古く複雑なシステムが障壁になり、復旧に時間を要する。一見すると別々の課題ですが、俯瞰してみると、この3つのレバーは互いに強く依存しています。

この構造はAI活用にも表れています。「キンドリル ピープル・レディネス・レポート 2026」によると、日本企業の87%が、AI導入のスピードが人材、ガバナンス、オペレーティングモデルを適応させるスピードを上回っていると回答しました。 AIの導入自体は急速に進んでいます。しかし、それを支える人材、業務プロセス、ガバナンスの整備は追いついていません。「導入は進んでいる。成果創出はこれから」――ここに、多くの企業が直面する課題があります。

3すくみの根本にある2つの課題

なぜ、こうした取り組みが成果に結びつかないのでしょうか。

私は、その背景の一つに、3つのキーレバーが互いに絡み合う「3すくみ」の構造があると考えています。それは、現場の声を聞けば明快です。AI推進やイノベーションを担う担当者は、「AIを本番環境で展開したい。しかし、データや基盤の運用、セキュリティが追いつかない」と考える。モダナイゼーションを担う担当者は、「システムを刷新したい。しかし、将来のビジネス要件やセキュリティ要件が見通せない」と考える。セキュリティを担う担当者は、「必要な対策はわかっている。しかし、古く複雑な基盤が障壁になる」と考える。

ここで重要なのは、全員がそれぞれ部分的には正しいということです。それぞれが自分の領域について的確な課題認識を持っているからこそ、互いの準備が整うのを待ち、その結果、誰も最初の一歩を踏み出せなくなる。これは意識の問題でも、予算の問題でもありません。変革を止めているのは「構造」そのものなのです。

この3つの課題をさらに掘り下げると、共通する問題が見えてきます。イノベーションを進めようとすると、データやAIの運用基盤、オブザーバビリティの不足に直面します。モダナイゼーションを進めようとすると、技術的負債やサイロ化、古く複雑なアーキテクチャーが障壁になります。セキュリティを高度化しようとすると、自動化やゼロトラストを支える基盤がなく、複雑で自動化できないという課題に行き着きます。 

私はその根本原因は大きく2つに整理できると思います。一つは、システム基盤が古く、複雑になり、変化に対応しにくくなっていること。もう一つは、業務やシステムを動かすための知識や判断が人の暗黙知に依存し、自動化や再利用が難しくなっていることです。技術の導入が先行する一方、人材やガバナンス、オペレーティングモデルといった組織の適応が追いついていないのです。そこに、前述した知識や判断の属人化という課題も重なります。AI、モダナイゼーション、セキュリティをそれぞれ別々に進めるアプローチでは、この二つの根本課題は解決できません。

AIは回答案を出すが、問題を発見・定義するのは人である

AI時代の人材育成の出発点となるのが「問い」とその質です。 

AIは多様な答えを提示できます。しかし、何が本当の問題なのかを定義することは、人の役割です。問いが曖昧であれば答えも曖昧になり、問いが表面的であれば得られる示唆も表面的なものにとどまります。 

例えば、「売上を伸ばす方法を教えてください」とAIに問えば、一般的な施策は返ってくるでしょう。しかし、その前に「なぜ売上が伸びないのか」「なぜ顧客が離れているのか」「なぜ現場でそのプロセスが滞っているのか」「なぜその業務が必要なのか」と、問いを深めなければ、自社の事業ドメインや顧客価値、現場に即した本質的な答えにはたどり着けません。 

AIに対するプロンプトも同じです。良いプロンプトとは、うまく文章を書くことではなく、現象や問題の奥にある構造を捉え、本質的な課題をAIに投げかけることです。AI活用におけるプロンプト力とは、言い換えれば問題発見力であり、真因を探る力でもあります。 

私は長年、製造業をはじめとする多くのお客様のIT現場に携わってきました。この「問い」の質を洗練させるうえでは、トヨタが重視してきた「なぜなぜ」を繰り返して真因を追求する姿勢、「現地現物」、そしてカイゼンを積み重ねるという考え方が、AI時代の人材育成にも重要な示唆を与えてくれると考えています。 

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インフラx AIで好循環に持ち込む

だからこそ、Transformを進める鍵は、「変化に対応できるインフラストラクチャー」x「知識の総体としてのAI」という掛け算にあると考えています。

そして3すくみを破る最初のドミノはインフラだと考えています。いわば、インフラを「清流化」することです。複雑さを減らし、オブザーバビリティを確保し、自動化や自己修復を組み込み、データが適切に流れる環境を整え、柔軟性を取り戻す。基盤が変われば、セキュリティを高度化しやすくなり、AIを本番業務で活用する基盤も整います。

その上で、システムに蓄積されたデータだけでなく、運用手順や過去の対応、ベテランエンジニアが持つ判断基準といった知識を、組織として活用できる形にしていく。その結果、ITは「守り」から「攻め」へと転じることができます。柔軟性を高め、TCOを最適化し、安心・安全を支える仕組みを自動化・高度化する。つまり、インフラの高度化とAIによる知識活用を一体で進めることで、3すくみの悪循環を、継続的な変革の好循環へと反転させることができます。

「キンドリル ピープル・レディネス・レポート2026」でも、AI活用に向けて組織変革を進めている先行企業「Pacesetters」(回答者全体の9%)は、単にAIツールを導入するだけではなく、AIを前提に仕事や役割の再設計、チェンジマネジメント、人材の準備、ガバナンスを含めて人がAIと協働するための変革を進めています。AIへの投資だけではなく、それを支える仕事の進め方や人材、組織のあり方まで一体で変えることが、成果につながる重要な条件であることがわかります。そして、その変革を実装するうえで、基盤と組織に蓄積された知識を一体で整えることが欠かせないと考えます。 

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3すくみを超える4つの力

では、この好循環を実現するためには何が必要でしょうか。私は、4つの力が重要だと考えています。

第一は、インフラを「理解する力」。どの業務を止めることができないのか。あるシステムを変えることで、どこまで影響が及ぶのか。日々のRunを通じて、業務やシステムの実態を深く理解する力です。

第二は、システムと事業を横断して「見立てる力」。どこから変革を始めるべきか。どこにAIを適用するのか。どのようにビジネス成果につなげるのか。技術だけでなく、業界や事業戦略まで見ながら、変革の道筋を設計する力です。

第三は、「作り上げる力」。構想を描くだけではTransformは実現しません。インフラを変え、AIを組み込み、クラウド、メインフレーム、ネットワーク、セキュリティなどを横断し、実際の環境に実装し、運用までつなげる力です。 

そして第四は、「束ねる力」。日々の運用から得られるデータ、システムの知識、業務プロセス、そして人が持つ経験や暗黙知を分散したままにせず、AIを活用しながら組織の知識として束ね、次のTransformに生かしていく力です。

この4つがつながって初めて、Runで得た理解や知識をTransformに生かし、Transformの成果を次のRunへと定着させることができます。キンドリルがRunとTransformの両方を重視するのも、この循環を構想だけで終わらせず、実装から運用までつなげていくためです。

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最後に

皆さんの組織では、こうした3すくみは起こっていないでしょうか。AIの担当が基盤の整備を待っている。モダナイゼーションがセキュリティ要件の確定を待っている。セキュリティが基盤の刷新を待っている。

もしそうした状態に心当たりがあるなら、それぞれを個別の課題として解こうとするのではなく、「3すくみ」という構造そのものを見直すことが次の一手になるかもしれません。

Run Transform Run——事業を支えながら、変革を実装し、その成果を新しいRunとして定着させ、そこから再び次のTransformを始めて、継続的な価値を創出し続ける。RunとTransformを対立させるのではなく、一つの循環として回し続けること。それこそが、AI時代に企業ITに問われる経営課題なのです。

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