asian woman programmer standing in front of a screen with code projected  presentation the integration of technology and human expertise in software development

AI導入の本質は「業務の再設計」にあり 人の価値を起点にしたIT業務変革の実践

田村 直剛
キンドリルジャパン 執行役員 マネージングパートナー AI事業開発室長


 製造業の事業成長とIT運用変革に長く携わってきた私自身、企業がAIエージェントを日々の業務に取り入れる中で、組織に起き始めている変化を実感しています。AIを単なる「人の代替」としてではなく、仕事や組織の構造そのものを見直す契機として捉える視点は、私たちが企業のエージェンティックAI導入を支援する中で実際に得てきた知見でもあります。また、これは「61%の組織がAIとのよりよい協働を実現するために役割の再設計を進めている」というキンドリルの調査結果にも表れており、私たちのチームが現場で向き合ってきた課題とも重なります。

 いまエンタープライズITの現場では、人材の枯渇と業務・ITの複雑化という2つの課題に同時に直面しています。熟練エンジニアの高齢化により、長年積み上げられてきた判断の勘所や暗黙知が失われつつある。一方で、クラウド化をはじめとしてサービスの多様化やアーキテクチャの高度化により、システムはより複雑なものとなっています。

その結果、システム全体を理解できる、限られた“わかる人”への依存が高まり、品質とスピードを両立しながら、システムを運用し、進化させることがますます難しくなっています。

 こうした状況において、AIを導入していくにあたり、何が鍵となるのか。以下では、ある製造企業にエージェンティックAIを導入した実際の経験をもとに、要点をご紹介します。

1. AIで属人化された業務を再構成する

 現行ITシステムモダナイゼーションの現場において、最も重要な仕事の一つは、変更を加えたときに何へ影響が及ぶのかを事前に見極めることです。この変更管理プロセスにおける一つのタスクの「影響分析」は、これまで長年にわたり熟練エンジニアの経験に支えられてきた領域です。関連する設定情報や運用手順書、過去の対応事例を横断的に確認しながら、「どこを変えると何に影響するのか」を読み解き、判断する力が求められるからです。 

 そこで私たちが目指したのは、その知見をAIで置き換えることではありません。業務の文脈を正しく理解したうえで、AIに委ねる判断の“単位”、すなわちどこまでをAIに任せるかを見極め、人の判断をより良いものにすることでした。熟練者の知見にAIを組み合わせ、業務の文脈を理解したうえで、AIが支援できる意思決定と、人の判断が引き続き不可欠な領域を見極めることで、判断の質とスピードを高めるアプローチです。現場担当者は「熟練者であっても、AIが提示した構成を見て『こちらの方が適している』『こんな選択肢があったのか』と新しい気づきを得る場面が生まれています」と手ごたえを感じています。 

2. 人が“考えるべき仕事”に集中できる環境をAIでつくる

 クラウド上に新システム構築やクラウド移行などのモダナイゼーションが加速する中で、構成設計の現場では、前提条件を整理し、複数の選択肢を比較して優先度を決定し、最適な構成を都度整理し続けなければなりません。そこで私たちは、必要な情報や論点を整理する設計支援型のエージェントを組み込みました。目的は、人が情報収集や整理に費やす時間を減らし、本当に価値を生む判断に集中できる環境を作ることです。人が力を発揮すべきなのは、案をゼロからひねり出すことではなく、その案が現場やお客様の要件に照らして妥当かどうかを判断することです。

 エージェントの設計担当者は、「AIが選択肢だけでなく、なぜその構成になるのかという理由を提示することで、経験の浅いメンバーもどこから学び始めればよいかがわかるようになっています」と話しています。AIエージェントは、意思決定を支援するだけでなく、人材育成の学習ツールとしても、大きな可能性を持っています。

3. 暗黙知を組織の価値に変える

 これらのAIエージェントを実運用で機能させられるようになった最大の理由は、現場に蓄積された暗黙知を、AIが理解し、活用できる形に翻訳したことにあります。このプロジェクトの中心を担った私たちのチームメンバーは、「文書化された知識だけでは十分ではありません。そこに業務の文脈や暗黙知まで整理して初めて、AIが活用できる土台ができました」と振り返っています。また、その前提には、現場との信頼関係を築き、暗黙知を引き出す環境を作ったことも欠かせませんでした。

 私たちは、顧客固有の業務やIT環境、文脈を深く理解し、インフラと業務の両面を見て設計したことで、このプロジェクトをPoC(概念実証)で終わらせることなく、本番環境での運用へとつなげることができました。このプロジェクトを通じて改めて実感したのは、AI導入の成否はテクノロジーだけで決まるものではないということです。AIの真の価値は、人を置き換えることではありません。AIの核心は人、業務、ITを一体で捉え、人を起点に仕事そのものを再設計することで、より大きなビジネス価値を生み出すことにあります。

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