ザクシス・クーパー
キンドリル デリバリー担当グローバルリーダー兼グローバル・インテグリティ・チャンピオン
ITデリバリーにおける従来型の自動化は、これまでも、そして現在も、システムを円滑に運用するうえで不可欠な要素です。事実、キンドリルでは毎月2億件の自動化処理を実行しており、あらかじめ定義したルールに基づく自動化判断によって、お客様に数十億ドル規模のコスト削減効果をもたらしています。自動化は私たちにとっての最初の対応手段であり、AI搭載のオープン統合ビジネスプラットフォームであるKyndryl Bridgeにおける高度なシステム運用の可観測性に基づいています。そして、自動化がいかに重要であっても、そこには現実的な限界も存在します。
従来の自動化は、あらかじめ定義されたルールに従って厳密に動作します。しかし、現在の複雑で、マルチベンダーかつ大規模で、そしてビジネスにおいてクリティカルなIT環境においては、あらかじめ定義されたルールだけでは対応しきれない現実があります。
そこでITデリバリーに登場するのがエージェンティックAIです。これは次なるゲームチェンジャーであり、すでに初期の活用事例では、劇的な成果が現れ始めています。また、エージェントがワークフローの一部を担うことによって、エンジニアは判断や例外対応、顧客の成果により集中できるようになり、働き方そのものも変化しています。
その結果、こうした高度なエージェントは、より多くの異常や例外に対応できるようになり、ITデリバリー全体の品質向上も後押しします。これにより、システム稼働率の向上、自動化適用範囲の拡大、生産性向上につながります。そして、信頼性の高い運用データをインプットとすることで、顧客は、安定性、セキュリティ、信頼性を損うことなくエージェンティックAIを活用することができます。
「エージェンティックAIは、個別に分断された実験の集合体ではなく、拡張可能な運用能力へと進化していきます」
新しいIT運用モデルでは、ソフトウェアはもはや単に定義された処理を実行する存在ではありません。AIエージェントは、複雑なIT環境全体の文脈を理解し、複数のシグナルを統合的に解釈し、適切なアクションを提案し、必要に応じて知識ベースやドキュメントを参照しながら、ツールやサービスを横断して業務を調整するといった、高度な役割を担います。さらに、依存関係の整理からコード変換、ドキュメント生成までを行い、モダナイゼーションプロジェクトそのものを大幅に加速させることもできます。重要なのは、人が引き続き境界を設定し、最終的な責任を担うという点です。
エージェンティックAIがもたらす価値は、まさにここにあります。IT運用やマネージドサービスは、その真価を実証する最適な領域となりつつあり、最終的には自律型IT運用への移行を加速させていきます。
重要なのは、ほとんどの企業がゼロからスタートすることはできないということです。AIに関する多くの予測では、以下の3つの厳然たる現実が見落とされがちです。
‒ 既に本番稼働していること
‒ 既に極めて複雑な構造を持っていること
‒ 既にビジネスにおいて不可欠な基盤であること
現在の企業では、固有のハードウェアとソフトウェアの独自の組み合わせの上で数多くのツールを運用しており、一夜にしてシステムを再構築することはできません。キンドリルのモデルは、そうした複雑性を前提としたうえで、信頼性、コンプライアンス、継続性を損なうことなくAIを運用できることを目的に設計されています。
その具体的な一例として、ある国際空港における取り組みが挙げられます。キンドリルはエージェンティックAIを導入し、サービス管理や中核となるIT運用領域で50超のユースケースを展開しました。その結果、フライト情報表示システムなどの日常的業務システムを含め、空港全体のサービス品質と信頼性が向上し、Wi-Fi障害の発生件数削減も実現しています。
こうした成果は、単なる理論や実験の結果から生まれたものではありません。実運用の現場でエージェンティックAIをいち早く適用してきたからこそ得られたものです。そして、実験から実運用へ移行する中で、いくつかの重要な学びが見えてきました。その中でもまず押さえるべきは次の点です。
エージェント型AIには確かな初期投資が求められる
成功に導くためには、新たなスキルの獲得に加え、プラットフォームやツールの統合、そして強固なガバナンスが不可欠です。これらは「あれば良い」というものではなく、前提条件とも言えるものです。単に労力をかければ価値が生まれると考えるのは誤りです。
すべてのユースケースが価値を持つわけではない しかし、適切に選ばれたユースケースは、ビジネスに大きな変革をもたらす
価値が低いユースケースは個別最適に留まりやすく、拡張性や再利用性がありません。その結果、標準化や横展開が難しくなり、全体の進捗を妨げる要因となります。一方で、優れたユースケースは、再利用可能なパターンや、展開を加速するための仕組み、さらにはリファレンスアーキテクチャを生み出します。これこそが、スケールを可能にし、デリバリーのスピードを高め、初期投資を長期的な推進力に結びつける原動力になります。
真の課題はパイロットの実施ではなく、実環境でスケールさせること
最も難しいのは、単一のエージェントを構築することではありません。スピードや品質、ガバナンス、再利用性を損なうことなく、組織全体で複数のエージェントを一貫性をもって構築できる状態を実現することです。
トレーニングだけでは不十分
チームには実践を通じた経験が必要です。開発者は、実環境で標準化されたエージェントを自ら設計し、構築し、テストし、展開できることが求められます。そしてトレーニングは、実践的で再現性があり、明確な標準に基づいたものでなければなりません。
ガバナンスは後から付け足すものではなく、最初から設計される必要がある
エージェンティックシステムは、必ずしも毎回同じ挙動をするとは限りません。そのため、従来型のモニタリングだけでは不十分であり、設計段階からプラットフォームに運用上のガバナンスを組み込むことが不可欠です。具体的には、エージェントオペレーションの管理レイヤー、監査証跡とログ、セキュリティアラート、そしてプロンプトインジェクション対策といった仕組みを、プラットフォームに内在させておく必要があります。このような基盤がなければ、パイロットから全社展開への移行は停滞します。
エージェンティックAIの導入は、技術的な取り組みであると同時に、組織にとっての心理的な変革でもある
お客様は、この新技術の導入に意欲的であると同時に、自社の基幹システムにどのように組み込まれるかについては、当然ながら慎重な姿勢も持ち合わせているはずです。こうした不安を和らげる上で重要なのが、エージェントの動作状況の可視化、強固なセキュリティ、明確な登録・管理の仕組みです。これらを支えるツールも日々進化を続けています。
明確な成果につながるような高価値のユースケースに優先的に取り組み、明確な標準を定義しチームが自律的に動けるようになれば、スピードは落ちるどころか、むしろ加速します。こうして初めて、エージェンティックAIは、個別の実験の寄せ集めではなく、拡張可能なデリバリーのケーパビリティへと進化していきます。
エージェントを責任ある形で機能させるためには、自らが稼働する環境について、共有され信頼できる共通の理解が不可欠です。Kyndryl Bridgeは、お客様にそのための「運用上の信頼できる単一の基盤」を提供します。自動化、システム健全性、インシデント、各種環境に関する全体のシグナルを標準化することで、人とAIエージェントが状況認識を持ちながら、同じ成果に向けて動ける運用の基盤を提供します。
Kyndryl Bridgeは、すでにキンドリルのITデリバリーの中核に組み込まれているため、エージェンティックAIをPoCの段階にとどめることなく、稼働中の本番運用へと展開し、システムの稼働率、一貫性、対応スピード向上を実現することが可能です。Kyndryl Bridgeは、エージェンティックAIを単なる実験から、エンタープライズレベルの運用へと進化させる存在なのです。また、このプラットフォームは、外部の最新情報ソースも取り込みながら、過去の知見とリアルタイムの状況把握の両方をエージェントに提供します。さらに、拡張という観点においても、ある環境で学習したパターンは、別環境においても応用され、類似の課題をより迅速な解決できるようになります。
しかし、エージェンティックAIは、日々の業務に単純に追加できるプラグインではありません。必要なのはマインドセットの変革です。日々の運用業務の中にエージェンティックAIのユースケースを組み込みながら、現実の業務に即した文脈や例外対応、さらには統制された自律性を前提に、ワークフローそのものを再設計する必要があります。エージェンティックAIフレームワークは、こうした取り組みを安全かつ、再現性のある形で組み込むための枠組みを提供します。これにより企業は、手作業かつリアクティブな運用を脱し、高度化された人材とAIエージェントが連携し、よりインテリジェントで、自動化され、文脈に応じた判断が可能な運用へと進化させることができます。エージェンティックAIと設計段階からのガバナンス導入により、お客様は、より予測可能でレジリエントなITデリバリーを実現することが可能になります。
本記事は、2026年5月14日(米国現地時間)にキンドリルが公開した記事の抄訳です。本記事の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。原文は下記URLをご覧ください。
https://www.kyndryl.com/us/en/about-us/news/2026/05/autonomous-it-operations-with-agentic-ai