キンドリルの統合AIデリバリーチームにヒューマン・システムズ・アーキテクトが加わる理由

AIは、かつて不可能と思われていたことを可能にしつつあります。しかし、その価値は自動化をはるかに超えるものです。どのようなプロセスでも自動化する前に、そのプロセスが置かれている背景を事前に理解する必要があります。業務は実際に組織の中でどのように進められているのか、そして、AIで価値を生み出そうとする前に何を変える必要があるのかといったことを自問しなければなりません。

通常、基礎がどれだけの負荷に耐えられるのかを確認せずに、その上に新しい仕組みを構築することはありません。にもかかわらず、多くの企業は、AIを前提に設計されていない業務の上にAIを導入し、その結果として生じる混乱に直面しています。AIを展開する前に耐えられる負荷を見極める必要があります。すなわち、業務がどのように流れ、どこで意思決定が行われ、従業員はどの程度の変化を、どのような速度で受け止められるのかを見極めなければなりません。これは、人間を含めたシステム全体の設計に関わる課題です。そして、その実現に欠かせないのがヒューマン・システムズ・アーキテクト(Human Systems Architect:以下HSA)です。

本Q&Aでは、キンドリルが、AIへの投資と現場で生まれる価値とのギャップを埋めるために、統合AIソリューションチームにHSAという新しい役割を加えた背景について説明します。回答するのは、Kyndryl ConsultのAIリサーチ&ストラテジー統括バイスプレジデントであるダイアナ・ウルフ博士(Diana Wolfe, Ph.D.)です。

キンドリルが最近、導入したHSAは、どのような役割を担うのですか?

ダイアナ・ウルフ:エージェンティックAIを導入すると、人々の働き方そのものが変わります。しかし、ほとんどの企業は、導入後に活用が停滞したり、意思決定が機能しなくなったり、責任の所在が曖昧になったりして初めて、そのことに気づきます。そうなると、人間に関連する課題は、後付けで対応されることになってしまいます。キンドリルは、こうした課題を導入後ではなく、システム構築の段階で捉え、解決するためにHSAという役割を設けました。

HSAは、システム構築と並行して、人とAIエージェントの協業レイヤーを設計する実務担当者です。これからは、人間のシステムにも技術システムと同等の厳密さが求められます。HSAは、そのような時代に対応するための新しい専門領域です。HSAは、フォワード・デプロイド・エンジニア(Forward Deployed Engineer:以下FDE)や業界領域の専門家(Subject Matter Expert:SME)と並び、キンドリルのAIデリバリーモデルで中核的な役割を担います。

実際の業務において、HSAは設計、統合、価値実現という3つの役割を担います。1つ目の設計では、組織内のチームが保有している知識、意思決定、ワークフローをマッピングし、人とAIエージェントが協働する形に最適化します。2つ目の統合では、AIエージェントのシステムを、実際の業務を支える人々や意思決定、コラボレーションのパターンと結び付けます。そして3つ目の価値実現では、組織、チーム、そしてそのシステムに関わるすべての人に対して、測定可能な価値をもたらします。

エージェンティックAIによって自律型エージェントが導入される中で、デリバリーチームにはどのような運用が求められるのでしょうか。

ウルフ:生成AIは、人が利用するツールです。一方、エージェンティックAIのエージェントは、自ら意思決定を行い、タスクを実行し、必要に応じて例外処理をエスカレーションする主体です。そのため、デリバリーチームは展開前に、どの意思決定をエージェントが自律的に行うのか、どこに人による監督が必要なのか、どこをエスカレーションの境界とするのかを明確にする必要があります。開発プロセス全体を通じて、HSAがFDEと連携することで、こうした課題に包括的に対応します。

たとえば、キンドリルのポリシー・アズ・コードの能力は、組織のルール、規制要件、運用管理を機械可読なポリシーへと変換し、エージェントの動作を統制することで、ガバナンスの基盤を提供します。しかし、実際のワークフローを整理し、暗黙知を抽出し、エージェントが担うタスクと人が担うタスクを切り分け、エージェンティックAIの自律性レベルをノードごとに調整する作業は、人が担わなければなりません。その役割を果たすのがHSAです。ポリシー・アズ・コードは、「エージェントに何を許可するか」を定義するのに対してHSAは、「エージェントが何を担うべきか」、そして、「人とどのように協働するか」を定義します。

通常、基盤がどれだけの負荷に耐えられるのかを確認せずに、その上に新しい仕組みを構築することはありません。にもかかわらず、多くの企業は、AIを前提に設計されていない運用基盤の上にAIを導入し、その結果として生じる混乱に直面しています。

ダイアナ・ウルフ

Kyndryl Consult AIリサーチ&ストラテジー統括バイスプレジデント

デリバリーチームは、人間中心の課題とテクノロジー中心の課題にどのように対応しているのでしょうか。

2025年版キンドリル・レディネス・レポート https://www.kyndryl.com/content/dam/kyndrylprogram/doc/en/2025/people-readiness-report.pdfでは、ビジネスリーダーの48%が、「変化に抵抗する企業文化がイノベーションを阻害している」と回答しています。また、People Readiness Report 2025 では、71%のリーダーが「自社の従業員はAIに対応する準備ができていない」と答えています。エージェンティックAIの導入は、組織から切り離して進められるものではありません。そして、現場の抵抗は必ずしも非合理なものではないのです。人は、自分が理解できないものに対して抵抗を示します。自分たちの役割がどのように変わるのか、誰が意思決定を担うのか、どのような監督体制になるのかについて、現場の人々が関与していないまま、ワークフローにエージェンティックAIを導入すれば、抵抗が生まれるのは当然の結果だと言えます。

技術システムと並行して、人間の体験そのものを設計している企業は、AI投資から実際の価値を引き出しています。たとえば、ポリシー・アズ・コードの導入に向けたプロセス分析事例では、重要な意思決定の約30%が、文書化されたプロセスの外で行われていることが明らかになりました。HSAがいなければ、こうした重要な意思決定がシステム設計から抜け落ちるリスクがあります。HSAは、複数の取り組みから共通するパターンを抽出、文書化し、企業がAIネイティブな議論を進める際の知見として活用できるようにします。こうした知見は時間とともに蓄積されることで傾向を明らかにするとともに、AI導入時に生じる摩擦を回避することにも役立ちます。

HSAによって可視化される情報は、リーダーが経験則や勘に頼るのではなく、現実のデータに基づいて、全社レベルの意思決定を行うことを支援します。最終的に、こうした知見とそこから導かれる行動によって、組織はより強くなり、避けられない変化にも対応できるようになるのです。

本記事は、2026年4月30日(米国現地時間)にキンドリルが公開した記事の抄訳です。本記事の正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語が優先されます。原文は下記URLをご覧ください。

https://www.kyndryl.com/us/en/about-us/news/2026/04/agentic-ai-human-systems-architect

ダイアナ・ウルフ

Kyndryl Consult AIリサーチ&ストラテジー統括バイスプレジデント

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