ビジネスにおける背景
ある日本の製造業の企業は、データのオープン化やレガシーシステムのモダナイゼーションを背景に、クラウド上に整備された共通開発プラットフォームへのクラウド移行を加速しています。
そこに浮上したのがアプリケーション設計に関する問題です。旧来のオンプレミス中心の開発スタイルでは、標準化されたツールセット、ドメイン設計、テクノロジースタックなどが指定され、開発者が考えて決定するべき範囲は限定されていました。これに対して新たなクラウド環境では、ネットワーク構成、セキュリティ制約、クラウド上で提供されるさまざまなマネージドサービスの選択に至るまで、考えるべきことが増え、専門的な判断を要する検討事項が開発者チームに委ねられる場面が増加していました。
技術的な課題
そこで同社とキンドリルは協力し、アプリケーション開発を支えるユーザー支援の専任チームを立ち上げました。システムの新規構築や移行プロジェクトにおいて、プロセス、技術とナレッジを集約し、開発を円滑に進める体制です。
しかしプロジェクトの増加に伴い、人に依存したこの支援モデルには限界が見え始めました。プラットフォームの利用相談から必要な環境の払い出しまでに1カ月近くを要するケースもあり、スピード感に対する事業部門の不満が高まっていました。
この課題を抜本的に解決すべくスタートしたのが、アプリケーション設計支援の自動化を目指した生成AI活用の取り組みです。最終的にはアプリケーション開発者がAIエージェントとの対話を通じて必要な情報を収集し、分からないことを解決しながら設計を固めていく業務プロセスを目指しました。
ソリューション
この課題を解決すべく、キンドリルはアプリケーション設計支援の自動化を目指した「アプリケーション設計支援AIエージェント」の構築に着手しました。
まず業務特性や制約条件を踏まえて主要なユースケースを選定し、AIに実行させる細かいタスクに分解。入出力仕様とタスク間の整合性を検証するフィジビリティテストフェーズを設けることで実装リスクを最小化した上で、数ヶ月のコンセプト検証期間ののちわずか2カ月でプロトタイプを完成させました。
- ユーザーが「どのようなシステムを作りたいか」を自由記述で入力すると、移行パターンを含む用途別のテンプレートをもとに、埋められる範囲で記入するだけで基本設計に着手できる仕組みを実装。
- AIからは複数のアーキテクチャの選択肢(サーバレス、コンテナ、ハイブリッド構成など)とそれぞれのメリット/デメリットを提示するとともに、推奨案を示すことでユーザーの初期検討を支援。
- AIエージェントは概要設計レベルのドキュメント(利用サービス、選定理由、通信経路、非機能要件やシステム構成図など)を生成。
- システムオーナーの意思決定にも役立てられるよう、月額費用の概算もAIが提示。
- セキュリティやネットワーク設計に関する同社固有の制約条件に加え、プラットフォームの構築・運用に長年携わるなかで蓄積してきた運用現場の暗黙知も、コンテキスト情報として整理しAIに組込むことで、人のサポートと変わらないサポートレベルを担保。
このプロジェクトによる進歩
現時点ではまだパイロット運用の段階ながら、アプリケーション設計支援AIエージェントは早くも多くの成果をもたらしています。定量的な効果として挙げられるのが、オンボーディングのリードタイム短縮です。
もし一般的な生成AIサービスを使用した場合、セキュリティポリシーや運用ルールに違反する構成を提示してしまうリスクもありますが、今回構築したAIエージェントでは明示された制約条件に加えて運用の暗黙知もAIに渡すコンテキスト情報として組み込んだことで、そのような心配もありません。
パイロット運用を終えた後は、利用範囲を数百人規模のユーザーに拡大していく計画です。
- 明示された制約条件と共に運用の暗黙知も整理・構造化し、ルールとしてコンテキスト情報として入力することで精度の高いAIからの回答が可能
- 環境オンボーディングに1カ月近く要していたリードタイムを約1週間に短縮
- 開発者とユーザー支援チームの双方で費やしていた設計・レビュー工数を半減
- クラウド活用経験の浅い開発者の学習ツールとしても活用が可能
- システムの要件入力から設計、スケジュール、実装まで一貫した効率化への道筋を獲得