システムの根幹が侵害されたとき:F5インシデントからの教訓

執筆:
クリス・ラブジョイ(グローバル・プラクティス・リーダー セキュリティ&レジリエンス)
ポール・サビル(グローバル・プラクティス・リーダー ネットワーク&エッジ)

アプリケーション・セキュリティ・プロバイダーのソースコードが侵害された場合、それはサイバーセキュリティだけの問題ではありません。企業のレジリエンスそのものが試されます。

最近発生した、中国に関連があるとされる脅威グループ「UNC5221」によるF5のソースコード侵害は、まさにその象徴ともいえる事案です。日常業務に支障をきたすサイバー攻撃とは異なり、今回の事案は企業ネットワークの中核を担う重要なコードの信頼性そのものを揺るがすものでした。

2024年8月に発生したCrowdStrikeによるグローバル障害に続き、今回のF5の事案は、信頼されているベンダーであっても、思わぬ形でリスクの源となり得ることを示しています。F5の BIG-IPハードウェアやソフトウェアを利用しているテクノロジーリーダーは、今こそ迅速かつ的確な対応をする必要があります。

一見すると、F5の侵害は単なる脆弱性であり、パッチを適用すれば済むように見えるかもしれません。しかし実際には、ソースコードの漏洩は未検出のバックドア(正規の認証やアクセス制御を回避してシステムやソフトウェアに侵入できる裏口)や隠れた脆弱性、ベンダーでも予測できないゼロデイ攻撃などを招く可能性があります。特に、旧型またはサポート終了間近のF5製品を使用している企業では、リスクが一層高まります。これらの製品の多くは、まもなくサービス終了(End of Service)またはサポート終了(End of Support)を迎える可能性があり、パッチ適用や検証が行えない場合があります。

言い換えれば、ソースコード侵害は「パッチ適用だけで解決できる問題」ではありません。

これは、レガシー環境を維持するために妥協するかという難しい局面です。企業はかつて、F5の信頼できる技術を基盤としてトラフィック管理や安全なアクセスを構築してきました。しかし今こそ、その信頼を再評価し精査する必要があります。今日の環境でサービス終了したインフラを稼働し続けることは、単なる技術的負債ではありません。攻撃者にとっての新たな侵入口となる可能性があります。なぜなら、攻撃者がシステム内部の構造をこれまで以上に理解している可能性があるからです。

キンドリルでは、グローバルなセキュリティおよびインフラストラクチャーの専門家が、業界横断的にテクノロジーおよびセキュリティリーダーと協力し、リスク評価と現実的な対応戦略策定を支援しています。多くの場合、第一歩としてタイムリーで包括的なヘルスチェックから開始します。システム構成の監査、脆弱性の洗い出し、安全なパフォーマンスの基準確立を確立し、F5のソフトウェアの長期サポート版へのアップグレードを選択する企業もあれば、この機会を生かしてより広範な戦略を見直し、ロードバランシング、Webアプリケーション保護、安全なアクセスを「ハードウェア依存」ではなく「サービス」として統合する、ハイブリッドもしくはクラウドネイティブなアーキテクチャーへと移行する企業もあります。

どの道を選ぶにしても、結論は明確です。レジリエンスは「当然備わっている」ものではなく、継続的なモダナイゼーション、多様なベンダー戦略、積極的なセキュリティ強化を通じて設計すべきです。このようなアプローチによって、ミッションクリティカルなインフラが、今後起こり得る脅威にも対応できるようになります。進むべき方針に迷う場合は、キンドリルの深い専門知識と戦略的パートナーシップが、明確な方向性と実行可能な計画策定を支援します。

F5の事案は重要な教訓を与えてくれます。リスクは必ずしもダウンタイムという形で現れるとは限りません。時には、コードの中に静かに潜んでいる場合もあります。効果的に対応するためには、モダナイゼーションをコストではなく「セキュリティ強化

の一環」として捉えることが重要です。キンドリルは、安定性と柔軟性を両立させる戦略的かつ積極的なアプローチこそが、あらゆる組織に必要だと考えています。世界のデジタルトラフィックを支えるシステムが、今後も信頼され、安全であり続けるために。

当記事は、2025年10月19日(米国現地時間)にキンドリルが公開したNewsroom記事の抄訳です。原文は下記URLを参照してください。
https://www.kyndryl.com/us/en/about-us/news/2025/10/lessons-from-f5-cyber-breach

Kris Lovejoy

Global Cyber Resilience Practice Leader

Paul Savill

Global Network and Edge Practice Leader