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ビジネストランスフォーメーション

データの民主化:銀行業が帳簿と記録から着手するべき背景

お知らせ 2023/06/01 読み取り時間:

銀行業のモダナイゼーションには、帳簿と記録から着手し、データを社内関係者が簡単に利用できるような環境を整える必要がある

Robert Wallos

最近母のもとを訪ねた際に、銀行がデータ管理において重大な課題に直面していることに気づきました。

退職を迎えた多くの人と同じように、私の母も苦労して貯めた貯蓄の詳細をすべて把握しておきたいと考えています。そこで私は母と一緒に銀行員との面談を実施し、口座見直し、資金統合、簡単な債券投資を行うことにしました。そう、その時までは有益な話を聞けると思い込んでいました。

しかし、これらの要望のいくつかは、FDIC保険に加入している金融機関の上級支店の担当者であっても対応ができないと判明したのです。

またあるとき、母の口座の明細書を印刷する必要がありましたが、Webポータルからは入手できませんでした。また、帳簿記録報告システムとCRMソフトウェアの制限により、支店で書類を印刷することができなくなってしまったのです。

当然のことながら、この状況における自分のお金の管理状況への母の心持ちは、安心感とは程遠いものです。.

金融サービス部門に特化した技術者である私にとっては、この出来事が金融サービスのあり方を考え直すきっかけになりました。

金融サービス企業は、規制当局の監督やリスク管理の強化からコスト圧力にさらされており、利益率にも影響が及んでいます。新規参入企業との競争激化や顧客基盤の多様化も相まって、成熟した企業はレガシープラットフォームやデータ要件の見直しに迫られています。

近年、多く企業がフロントエンドとモバイル体験のモダナイゼーションに多額の投資を行ってきましたが、世界の金融取引のほとんど(クレジットカード取引の90%を含む)を処理・記録するメインフレームシステムは軽視されがちでした。*1

銀行がサービスを拡大し、効率性を高め、リスクを削減し、イノベーションを推進するためには、まだまだ険しい坂道を登らなければなりません。まずは、メインフレームデータの民主化を優先しなければ、その実現は不可能でしょう。メインフレームからデータを民主化することで、サイロ化した機密情報へのアクセスが可能になり、業務効率を変革し、コンプライアンスを改善することができます。

 

組織のサイロ化がデータ共有を阻害

現状のデータ環境には、さまざまな要因が影響しています。まず、ほとんどの大手金融機関は、過去100年の間にM&Aによって生まれた多様な事業の集合体です。

これらの企業は巨大で多様な組織を構築しており、非常に効率的な一方、たいてい互いにサイロ化しています。このような組織構造は、複雑なテクノロジーとデータスタックを生み出し、異なるサイロ間でのデータ共有を困難にしているのです。

さらに、従来の役割ベースのデータアクセスモデルは、ユーザー権限ではなくビジネスルールに基づいてデータやシステムへのアクセスが行われる最新の属性ベースのアクセスコントロールモデルよりも、ビジネス要求への対応が遅いことが判明しています。  

メインフレームからデータを民主化することで、サイロ化した機密情報へのアクセスが可能になり、業務効率を変革し、コンプライアンスを改善することができます。

サイロ化に対処するため、銀行は複数のソースからのデータを統合、整理、分析できる大規模なデータウェアハウスを構築してきました。データウェアハウスは、コンプライアンス、顧客関係管理、リスクなどの分野で金融機関を支援してきましたが、データの品質、統合、拡張性、ガバナンスなどの要因による制約がありました。
 

メインフレームデータの統合は依然として困難

データウェアハウスの強みは、組織全体のデータを統合できることです。しかし企業の多くは、メインフレームのデータを統合するのに苦労しています。

確かにボカラトンの支店で、フラストレーションがたまっている顧客担当者(と私の母)を前にして、技術的な問題を診断するのは難しいでしょう。しかし、母の投資に関連する記録はメインフレームに保存されており、おそらく誤って分類されていると推測されます。このため、顧客の財務諸表を作成するレポーティングシステムでは利用できなかったのです。

メインフレームのデータセットには、さまざまな形式があります。たとえば固定長および可変長のファイル、DB2およびIMSデータベース、VSAM(Virtual Storage Access Method)ファイル、COBOLコピーブック(COBOLプログラム内のデータ構造を定義するコードのセクション)などです。

コピーブックは特に複雑で、データの物理的なレイアウトを定義するメタデータブロックですが、プラットフォームには別々に保存されています。しかし、Hadoopのような最新のデータウェアハウスツールは、コピーブックのデータ構造が複雑なため、データ変換が難しいのです。
 

金融機関が直面するその他のデータ課題

以下のようなデータ課題も、金融機関の障壁となる可能性があります。

  • 単一顧客または法人識別子がないため、顧客の保有資産、活動、収益性を完全に把握することが難しい。
  • 顧客プロファイル情報のギャップは、サービシング上の問題を引き起こし、規制上のリ スクをもたらす可能性がある。
  • 現地とグローバルの資産・商品分類の不整合は、アドバイザリーおよびレポーティング機能に影響を与える可能性がある。
  • 取引報告に関連するタイムスタンプ(取引日と決済日)のように、地域オフィス間で異なるポジション管理基準は、報告リスクをもたらす。

これらの重要なデータセットを解放してビジネスや顧客の需要をサポートすることは、銀行がデータ主導のビジネスモデルへの転換を成功させる重要な要因となり得ます。

帳簿と記録:銀行で最もサイロ化されたデータセットの一部

帳簿および記録は、長い間、金融サービスにおける基幹データとみなされており、投資会社がその事業活動に関連して維持する財務上および業務上の記録を指します。これらの記録には、顧客口座、財務諸表、取引記録、その他会社の取引や業務の証拠となる文書が含まれます。

証券会社は、規制上の義務の一環として、正確かつ最新の帳簿と記録を保持することが義務付けられています。また、コンプライアンスを遵守するため、規制当局の要請に応じてこれらのデータを提供することが義務付けられています。

帳簿・記録データは、組織内で最も重要なものの一つと考えられていますが、最もサイロ化され、最もアクセスしにくいものであることが多いです。

その理由は、コストとリスクが関係しているためです。

これらの基幹システムへのアクセスを拡大するプログラムは、プラットフォームの変革と運用を担当するIT部門に限られたROI(費用対効果)しかもたらさないため、優先順位が低くなりがちです。

帳簿・記録データは、最も重要なデータの一つと考えられている中で、最もサイロ化され、最もアクセスしにくい状況にあるケースが多々あります。

帳簿と記録のプラットフォームは重要であると考えられているため、どのような変更にも上位役職の承認が必要となります。経営層は、リスクとそれに見合ったリターンを問うでしょうが、それを定量化するのは難しいかもしれません。また、プロジェクトチームが明確なコストメリットを提示できなければ、統合プロジェクトの承認を得られないかもしれません。

しかし、企業が変革的なデジタル戦略を推進するうえで、これらの基幹データセットへのアクセスは極めて重要になります。データセットへのアクセス機能は、今後10年間、変化する市場勢力にうまく対応するための重要な要素となるでしょう。

 

新たな規制によりデータアクセスの必要性が高まる

米国の規制当局は、銀行の顧客保護と経済へのリスク削減のため、監視を強化しています。証券の清算・決済におけるリスクを軽減するため、SECは2024年5月までに、ほとんどの証券取引の決済サイクルを取引日の2営業日後(T+2)から1営業日後(T+1)に短縮する大々的な規制を可決しました。*2

T+1は、ここ数十年で最もインパクトのあるシステム全体の変更となり、決済サイクルの短縮をサポートするために、基幹プラットフォームチームはデータアクセスの拡大を迫られています。

このような中核的な帳簿・記録プラットフォームに蓄積されたデータの膨大なビジネス上の価値と規制上の重要性を考えると、銀行がデータ民主化を始めるには絶好の場所です。

 

銀行の顧客満足度にも影響

銀行がデータの民主化を進める中で直面する課題は、新たな規制だけではありません。データの民主化が遅れている銀行は、顧客との関係も含め、さまざまな面で影響が拡大するのを感じるでしょう。

私の母のケースでは、メインフレーム上のデータのサイロ化によって、支店の担当者が最も重要な取引を完了するために必要な書類を作成することができなくなりました。1時間以上経った後、口座を閉鎖し、他行に資金を集約する方が、この銀行の問題解決を待つよりもリスクが少ないと判断しました。

幸いなことに、銀行はデータの民主化を優先することで、顧客の混乱を避け、業務改革を改善することができます。

 

Robert Wallos は、キンドリルの金融サービス・テクノロジー・ストラテジストです。