キンドリルのサイバーレジリエンス&コネクティビティ担当グローバルプラクティス・リーダーが、エージェンティックAI時代においてサイバーセキュリティで「ガバナンスされたイノベーション」が重要となる理由を解説します。
Bloomberg Media Studiosとキンドリルの共同制作記事
AIの急速な進化は、企業に新たな機会とリスクをもたらしている。経営層が生産性向上やコスト削減、事業成長に期待を寄せる一方で、CISOは急速に変化する脅威への対応を迫られている。これまで人による脅威への対応が中心だったCISOは、今やAIエージェントによる攻撃も想定した対策が求められている。AIエージェントは、大規模に活動できるうえ、人間による行動との判別が難しいという特徴がある。
テクノロジー系ベンチャーキャピタル企業Team8が実施し、昨年7月に公表した2025 CISO Village Surveyによると、サイバーセキュリティ・リーダーのほぼ4分の1が、過去1年間に自社がAIを活用した攻撃を受けたと報告している。
調査結果からは、実際の被害はさらに多い可能性もうかがえる。AIを活用した攻撃は人間の行動を巧みに模倣するため、従来の攻撃との判別が難しくなっている。キンドリルのサイバーレジリエンス&コネクティビティ担当グローバルプラクティス・リーダーであるPaul Savillは、このような見えにくい脅威の拡大こそが、AIを活用した攻撃への迅速かつ的確な対応が求められる理由だと指摘している。
CISOの最大の課題
エージェント型AIは、脆弱性管理などの従来のサイバーセキュリティの懸念を凌駕しています。
AI時代に向けたセキュリティ意識の転換
この緊急性に対応するため、CISOには従来の防御中心の考え方から、脅威を予測し、影響を最小限に抑えながら迅速に回復できるレジリエンス重視の体制への転換が求められている。
AIを活用した脅威は、不正なプログラムを送り込むだけでなく、システムの弱点を自動的に探し出す。 Team8のCISO調査の回答者は、サービスレベル・アグリーメントにおける重大な脆弱性の最大40%が未パッチのままであり、AIに悪用される経路が残されていると報告している。
“これまでセキュリティは脅威を防ぐことが中心であり、レジリエンスは被害発生後の復旧を指していました”とSavillは述べている。“現在求められるセキュリティは、攻撃を受けても事業への影響を最小限に抑え、迅速に復旧できることです”。
AIエージェントは生産性を高める一方で、新たなリスクももたらす
Bloomberg Intelligenceの報告によると、2024年にエージェンティック系スタートアップへの資金調達はほぼ3倍に増加し、前年の13億ドルから38億ドルに達した。
この急速な成長は、生成AIからエージェンティックAIへの移行が進んでいることを示している。Savillは、この変化がもたらすセキュリティ上の影響は十分に認識されていないと指摘する。
彼は従来のフィッシング詐欺を例として、生成AIを利用して医療機関の利用者を狙ったフィッシングメールを作成し、パスワード変更へ誘導する手口を挙げた。
“エージェンティックAIでは、個別の指示ではなく、「企業に侵入し、財務データを取得する」といった目的だけを与えます。すると、AIエージェントはその任務を遂行します。計画を立て、フィッシング攻撃を構築し、組織に侵入するメカニズムを構築し、進行に合わせて適応していきます”とSavillは述べている。
ガバナンスに基づくイノベーション:AI活用を安全に進めるための実践的なアプローチ
Team8のCISO調査は、サイバーセキュリティの責任者がSavillの懸念を共有し始めていることを示しており、回答者の3分の1以上が、AIエージェントの保護を最優先課題に挙げている
AIエージェントの活用が広がる中、Savillは、インフラだけでなくAIシステム自体も保護する「ガバナンスに基づくイノベーション」の重要性を提唱している。これは、インフラストラクチャーだけでなく、AIシステムそのものを保護する方法である。
「ガバナンスは、安全にAIを拡大活用するための基盤です」とSavillは述べる。AIエージェントが業務プロセスに深く組み込まれる前に継続的な監視体制を整えることで、CISOはリスクを抑えながら、信頼性とレジリエンスを確保し、AIの活用を推進できる。企業はAIエージェントの運用を開始する前に、明確なルールを定める必要がある。
Savillは、AIエージェントを高度な権限を持つ内部利用者として管理すべきだと提唱している。すなわち、ミッションを定義し、行動を認証し、ポリシーを適用し、継続的に監視することだ。そのため、サイバーセキュリティチームには、「AIガバナー」という新たな役割が求められる可能性がある。この役割は、AI戦略、倫理、リスク管理を横断的に担う。
AIエージェントには、財務やカスタマーサポート、物流、セキュリティなど複数部門にまたがる高度な権限が付与される可能性がある。AIガバナーの役割は、「AIエージェントの目的は何か」「どのような役割を担うのか」を明確にすることだとSavillは述べている。AIエージェントの役割や権限、アクセス範囲、想定される状況での振る舞いを事前に明確に定義する必要がある。
Savillは、エージェンティックAIのガバナンスとデジタルトラストを実現するための4つのフレームワークを提示している。
- エージェントレジストリ:AIエージェントを業務で利用する際は、一覧を作成し、それぞれの役割や担当業務、権限を明確に管理する。
- 認証サンドボックス:Savillは、本番環境に近い検証環境を用意し、AIエージェントの動作を事前に確認・評価することを提案している。
- ポリシーエンジン:AIガバナーが必要に応じてAIエージェントの動作を停止・制御できる仕組みとして、AIエージェントの設計段階からセキュリティを組み込むことで、想定外の動作や独自ルールの生成を防ぎます。ポリシーエンジンは、問題が発生した際の迅速な制御を支援する。
- モニタリング:AIエージェントのパフォーマンスや信頼性、社内ポリシーへの準拠状況を継続的に監視・評価する体制を整える。
“多くの組織は、AIエージェントを内部利用者と同様のリスク対象として管理する必要があります”
Paul Savill | サイバーレジリエンス&コネクティビティ担当グローバル・プラクティス・リーダー、キンドリル
適切なガバナンスのもとでAIを活用することで、CISOはリスクを抑えながら、業務効率の向上や意思決定の高度化、レジリエンスの強化を支援できる。重要なのは、自律性を追求することではなく、信頼性を確保しながらAI活用を拡大することである。