AIエージェントが金融セクターに参入し、規制圧力も緩和されつつあるいま、キンドリルの金融サービス分野のエキスパートが、これから銀行業界にもたらされる変革の行方を見通します。
本記事は、Bloomberg Media Studiosとキンドリルの共同制作です。
多くの業界と同様に、銀行業でもAI導入の重要性が認識されるようになっています。 Bloomberg Intelligence (英語) による2025年の分析によれば、銀行がAIへの依存度を高めることで、収益性は12%超、金額にして1,000億ドルの増加の余地があることが示されています。
Bloombergによると、AIエージェントを導入することで、銀行は今後3~5年で生成AIから期待されている5%の生産性向上をも上回る成果を実現できる可能性があるということです。
しかし「今やあらゆる企業はテクノロジー企業である」という格言がAI時代において特別な意味を持つ一方で、金融機関は自動化を推し進める前に、これまで以上に戦略的かつ意図をもった取り組みが求められると、キンドリルの金融サービス部門 バイスプレジデント 兼 コンサルトパートナーであるNeha Aroraは語ります。
銀行がデジタルネイティブ企業のように事業運営する必要性を認識するなかで、AI導入が銀行業にもたらす意味合いは、他業種とは大きく異なっていると彼女は指摘します。
その理由は、銀行はテクノロジーシステムを最新に保たなければならないだけでなく、厳格な規制やコンプライアンス上の精査、データおよび顧客の信頼をめぐる高いセンシティビティにさらされているうえ、多くの場合、レガシーなインフラをつぎはぎ的にアップグレードしているという事情があるからです。
それでもなお、規制がAI導入の進展を大きく阻害するものではない点を押さえておく必要がある。むしろ規制こそが、次なる競争力の波を設計することになります。
「銀行にとって『テクノロジー企業である』とは、単にAIを採用することではなく、テックスタックのあらゆるレイヤーに、信頼、コンプライアンス、レジリエンスを組み込むことを意味します。」
Neha Arora
金融サービス部門 バイスプレジデント 兼 コンサルトパートナー
キンドリル
AIに対する銀行の備えの評価
Bloomberg (英語) による銀行セクターにおけるAI分析は、レガシー金融機関およびネオバンクを含む、世界中の銀行のリーダー、93名を対象とした調査に基づいています。
また、銀行におけるAIの活用はすでにアナリストの予想を上回っているものの、完全な採用とエージェントによる自律性を実現するまでには、このセクター特有の規制環境のために5年以上かかる可能性があることが、Bloombergの調査で明らかになりました。
銀行のレガシーインフラも、AIの広範な導入に対する障壁となっている。キンドリルの 「2025年版 Readiness Report (英語)」 の調査に回答した銀行・金融サービスセクターのリーダーの4分の1超が、自社のオペレーティングシステム、サーバー、ネットワークがサービス終了時期であるか、あるいはその直前にあると答え、58%が、自社が現在のクラウド環境に至ったのは能動的な戦略の結果ではなく「偶然」であったと回答しています。
それでも、明るい材料はあります。業界横断で見ると、回答者の54%が、AIおよび機械学習への投資について、すでにROIが出ていると報告しています。
そしてAroraは、課題の中にこそ機会があると指摘します。
その一つは、APIファーストのシステムを優先することです。これは、他のシステムに取り込まなければならない統合ではなく、個別に定義されたプロダクトを生み出すという、銀行セクターにおけるトレンドです。設計段階からモジュール化され相互運用性を備えたAPIプロダクトは、銀行やフィンテック企業が、顧客が期待する迅速で信頼性の高いサービスの提供に注力できるよう支援します。
「まずは小規模な取り組みから始めることが現実的です。」とAroraは述べます。「APIにフォーカスすることで、銀行はビッグバン型の大規模なトランスフォーメーションを行うことなく、AIを統合することができます。」
彼女はこのダイナミクスが、とりわけ中小規模の銀行にとって有利に働くと見ています。大手金融機関のようにAI統合を遅らせかねない根深いレガシーシステムを抱えていないことが多いためです。
「そこには、より高いアジリティがあります」とAroraは指摘しています。
キンドリルの金融サービス部門 バイスプレジデント 兼 コンサルトパートナーであるAnju Tiwariは、銀行業界の中堅セグメントでAI導入がより速いペースで進んでいると見ています。AIアプリケーションをスケールさせるには小さすぎず、またレガシーシステムに起因するデータ面のハードルに直面するほど大きすぎもしないこの中堅セグメントは、より迅速に動くポジションにあります。
「ネオバンクに立ち向かっている大手銀行と話をすると、彼らは“デジタルバンク”である段階を飛ばして、最初から“インテリジェントバンク”になりたいと考えています」とTiwariは語ります。
顧客体験インテリジェンス
銀行における次のAI主導のステップチェンジは、AroraとTiwariが「見えないエンベデッドファイナンス(invisible embedded finance)」と表現するレイヤーを顧客体験に付加することになります。これらはすなわち、利用者の金融上のルーティンの中で、最大の価値を提供できるタイミングにおいて自然に立ち現れる直感的なプロダクトやアプリケーションです。
さらに、不正検知や信用スコアリングにおける自動化に加え、銀行はインテリジェントなペイメントオーケストレーションのために、AIへの依存を今後一段と強めていくことになります。
Aroraは、Apple Pay、Google Pay、PayPalが、従来型銀行の文脈の外側にあるペイメント領域において信頼を獲得してきた顧客体験の前例を挙げています。消費者の購買行動にシームレスに組み込まれることで、これらテック企業は銀行に対して、デジタル面での競争力を一段と高めるよう圧力をかけてきたのだとAroraは述べます。
「それによって、彼らがAIを競争上の差別化要因として採用する道が開かれるのです」とAroraは語ります。
AIはコスト、スピード、リスクを評価し、自動決済機構(ACH)、カードネットワーク、ブロックチェーンのいずれであれ、最適なペイメントレールを選択することができます。これにより、銀行にとっての業務コストは削減され、トランザクションの失敗件数が減少し、顧客体験も向上します。
Aroraはまた、一定期間にわたって銀行顧客の位置情報や支出パターンをスキャンし、購買のタイミングで関連性の高いオファーやファイナンスオプションを提案できるAIアプリケーションが主流になると見込んでいます。透明性と確立された信頼によって裏打ちされたこのような一段と高度なパーソナライゼーションは、効率性の向上を超えて顧客との関係性を深めるというAIの力を浮き彫りにします。
「これは銀行にとって大きな転換点となる可能性が高いでしょう。」とAroraは語ります。
最終的に、顧客が求めているのは、単に処理速度の速い銀行サービスではありません。支援的で、公平で、説明可能であり、その背後に信頼と透明性がある銀行サービスなのです。
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How does your AI strategy stack up?
Assess your AI readinessエージェントによる意思決定への信頼醸成
銀行サービスのスピードとサポート性の双方を決定づけるさらに多くのプロセスがAIエージェントに委ねられていくことになり、エージェント活用がより広く進む流れを示しています。
Bloombergが報じているように、2024年第4四半期の決算説明会におけるAIエージェントへの言及回数は前四半期比で4倍に増加しており、エンタープライズAI戦略におけるその重要性が急速に高まっていることを示しています。
キンドリルのグローバル データサイエンス & AI コンサルト リードであるPatrick Gormleyは、現時点でAIエージェント市場が雑然としていることを認める一方で、多くの大企業が、自社が構築した数千のエージェントの存在を強調することで、AIに関する信頼性をアピールしようとしている状況を目にしていると述べています。
しかしGormleyは、彼らが本来取り組むべきなのは、数を増やすことではなく、より少数であっても、より高い能力と実行性を備えたエージェントを構築することだと指摘します。
「お客様が求めているものはエージェントそのものではありません。お客様が求めているのは成果です。」
Patrick Gormley
グローバル データサイエンス & AI コンサルト リード
キンドリル
Aroraは、多くの銀行業のお客様がコスト削減のためにAIを活用していると指摘し、今後は、セキュリティ面—AIを活用した脅威にAIツールで対抗することだけでなく、顧客体験においても戦略的なシフトが起きると予測しています。
たとえば近い将来、AIエージェントがローン申込の評価や審査判断の業務を担うようになるでしょう。そしてAroraとTiwariは、スピードは透明性ほど重要ではないという点で一致しているものの、プロセスを合理化する エージェンティック AI の能力は、銀行側・顧客側の双方にとってメリットがあると考えています。
これまで1時間以上かかっていた判断や結論が、エージェントを通じて20分以内で出せるようになると、Tiwariは指摘しています。
そのためには、正確な顧客プロフィール、信用情報機関におけるデータの取引履歴の明確な記録、雇用および収入に関する詳細が必要となります。
「ローン審査AIエージェントを成功に導くのは、強固なデータ基盤です。」とAroraは語ります。
そのうえで、どのような決定であれ、その根拠は明確かつ公正でなければならず、債務対所得比率のような従来型で立証可能な要因を引用する必要があります。
そうでなければ、判断がAIによるものだと顧客が認識した場合、不利な内容を受け入れにくくなる恐れがあるとAroraは警鐘を鳴らしています。
規制当局はAIの障壁からAIの促進者へと転換
今夏に開催されたワイオミング・ブロックチェーン・シンポジウムにおいて、Bloombergの Banking Industry Monitor newsletter (英語)では、連邦準備制度理事会(FRB)理事会における銀行監督担当副議長であるMichelle Bowmanが、銀行セクターにおけるAIおよび暗号資産を巡る規制を緩和しなければ、銀行は経済における存在感を失うリスクがあると警告したことを報じています。これは、規制当局ですらAIの不可避性だけでなく、そのもたらすビジネス機会を認識し始めていることを示す、これまでで最も強いシグナルの一つです。
この助言は、AroraとTiwariが、キンドリルの金融業界のお客様から、新興テクノロジーとコンプライアンスのバランスに関して耳にしている内容とも一致しています。
嬉しいことに、透明性の高いAIガバナンスシステムに投資することで、規制圧力を競争優位に転換することができるとAroraは述べています。
驚くべきことではありませんが、AIを監督する規制当局は不透明なブラックボックス型のガバナンスモデルは支持していないとTiwariは述べます。
Tiwariによれば、キンドリルは、規制当局の期待が変化し続ける状況をお客様が理解できるように支援するとともに、評価および判断プロセスがAIによって実行される際の明確な監査証跡(オーディットトレイル)の透明性を確保することで、安心感と明確な前進の道筋をお客様に提供しています。モデルがどのように学習されているかを含め、モデルを規制フレームワークとどのように整合させているかという点に透明性を組み込むことは、規制当局側の信認醸成にもつながります。
「モデルが規制要件を遵守していることや判断に至るためのトレーニングも含めて、それが満たされていると規制当局が確信できれば、受け入れることができます」とTiwariは語っています。
「規制当局も、AIの障壁にはなり得ないことを理解しています。彼らはAIの促進者にならなければならないのです。」
Anju Tiwari
金融サービス部門 バイスプレジデント 兼 コンサルトパートナー
キンドリル
銀行が求められる微妙なバランス
AIと銀行の交差点に関するBloombergの報道は、テクノロジーが、銀行と顧客とのロイヤルティを極めて精緻なレベルで形成していることを裏付けています。たとえば、顧客が資金を他行へ移そうとしているタイミングを予測し、銀行が介入して関係を維持できるようにするモデルの開発などが挙げられます。
Aroraは、顧客の期待と銀行のバックエンドの現実との間に存在する微妙なニュアンスを理解しています。
「誰もが、より迅速なローン審査と、チャットボットやバーチャルアシスタントによってのみ実現可能な常時対応のサポートを求めています」と彼女は言います。「顧客は遅延は望んでいませんが、その一方で信頼性も求めているのです。」
「銀行がそのバランスをどのように確立するかによって、銀行業におけるAIの将来像が決まることになるでしょう。」