メインコンテンツにスキップ
ビジネストランスフォーメーション

特許取得の裏側:保険金詐欺を防止する方法

お知らせ 2023/06/21 読み取り時間:
 
Clea Zolotow

予測システムは、エラーの検出や反復作業の自動化など、多くの場面で大いに役立ちます。しかし、複雑な環境に予測システムを導入するのは非常に難しいのが現状です。私がエンジニア仲間と最近開発した特許は、この問題を対処するものです。「Cognitive Systematic Review (CSR) for Smarter Cognitive Solutions」は詐欺や企業のリスク回避といった複雑な環境においても、対象の真偽の判断をサポートします。

複雑性の高い環境で起きる保険金詐欺

保険詐欺を例に挙げましょう。保険詐欺は保険会社とその顧客の双方に損害を及ぼします。保険詐欺により、2022 年だけで米国の保険会社に 3,080 億ドルの損害が発生したと推定されています(1)。

私に米国の南東海岸沖の島に家を持っている友人がいるとします。

この島では季節ごとにハリケーン級の暴風雨に見舞われ、物理的な損害を被ることもあります。しかし、友人の家は内陸にあり、洪水区域には建っていません。さらに最新の建築基準に基づいて建てられているため、異常気象に対して強固な対策をしてあります。

このように耐久性が比較的高い家だったのですが、ここ数年の異常気象増加により、友人宅の災害保険料は急上昇しました。もちろん保険料の値上げは避けられません。しかし、海の間近にある住宅や、最新の建築基準法に準拠していない住宅と同じくらい保険料が上がったことに友人は不満を漏らしていました。

ここでひとつ、友人が知らない事実があります。それは、友人と同じ内陸に最新の基準に沿って家を建てたにも関わらず、一部の近隣住人が不正な保険金請求を行っており、その影響で近隣の家すべての保険料がつり上がっていたということです。この事実は、保険会社が手作業で実施した膨大な審査と調査により発覚しました。
 

テクノロジーを用いてどのようにして詐欺行為を発見するのか

詐欺行為の特定は人の手で行わなくてはならず、時間がかかり、そしてその結果も偏ります。しかし保険業界の専門家たちは、詐欺行為を発見するために必要な各種情報を収集・分析するための手段や時間がありません。特に損害保険に関しては、地形の変化や局所的な大気条件を考慮せず、単純に住宅を区画別にグループ化してしまいがちです。これでは正確な予測モデルは構築できず、詐欺にも気づけないでしょう。

従来よりも高性能なテクノロジーは、エビデンスに基いた予測変数の強固なエコシステムを予測モデルに提供することができます

私と同僚は、より高性能な認知・予測テクノロジーを導入すれば、保険会社やその他の企業たちが直面している課題を解消しやすくなると考えました。従来よりも高性能なテクノロジーは、エビデンスに基づく予測変数の強固なエコシステムを予測モデルにもたらします。これにより、予測の精度は上がり、顧客の満足度を長期的に向上させられるようになります。


このテクノロジーを支えるエンジンは、(私の個人的なお気に入りでもある)「隠れマルコフモデル」といって、行動の共通性を見極める手法です。


簡単に説明すると、隠れマルコフモデルとは将来の出来事の可能性について予測するための数学的モデルです。特に有効となるのは、過去に連続して起こった出来事(一部が隠れているか不明であることがある)をデータとして用いたときです。

特に有効となるのは、過去に連続して起こった出来事(一部が隠れているか不明であることがある)をデータとして用いたときです。

 
この予測モデルがゲームチェンジャーである理由

友人の家を例に戻りますが、熱帯性暴風雨が海岸線を襲った後、友人の隣人はこの状況を悪用しようと考えました。彼らの家は暴風雨の被害を受けませんでしたが、長年住み続けていたため屋根が傷んでいました。そこで、損害保険金を請求することにしました。

暴風雨はたしかに発生しており、損傷した物件もありましたが、その被害は洪水区域内に集中していました。私たちが開発した新しいアプローチを用いることで、保険会社はニュースや研究、対照実験、さらにはソーシャルメディアに至るまで、入手可能なあらゆるデータを各所から幅広く集めてモデルを作成できるようになります。

具体的には、Googleマップなどのオープンソースから得た詳細なデータや、突風や雨がひどかった地域についての気象データ、建築物ごとの築年数や建築基準法に則っているかどうかなどをまとめた政府の記録を参照します。それらのデータから、例えば保険料請求者が島のどの地域に位置しているかに基づいて評価します。保険金を査定するために派遣された担当者は、屋根の損害がはたして暴風雨によるものなのかについて情報を得られるようになります。

私たちの予測モデルによって、保険金請求の真偽をより正確に判断できるようになり、不正行為そのものを抑制して会社にとってのリスクを軽減するだけでなく、近隣の不動産にとっても余計なコストの増加を防げるようになります。

くより厳密で正確な予測モデルへの出発点

もしこの手法が製品やサービスとして実現すれば、保険会社の予測システムを合理化・最適化できるでしょう。これにより、手作業かつ時間が必要な従来のシステムを刷新し、コストも削減できます。もちろん、今後さらに厳密かつ正確で、よりパフォーマンスに優れた予測モデルが現れ、さらに大きなビジネス的成果をもたらす可能性もあります。実は、この手法の真価は、その汎用性にあります。

私と同僚は、請求が詐欺かどうかの判断に使うことを想定してこのアプローチを設計しました。しかしこのアプローチは、詐欺の判断だけでなく、潜在するリスクや将来のライフイベントを評価し、より正確でパーソナライズされた判断を顧客に提供することにも応用できます。そして正確な意思決定は、最終的には保険会社のケース管理やトレーニング、マーケティングプロセスにも役立ちます。

これらは、確率の魔法が生み出す可能性のほんの一部に過ぎないのです。


Clea Zolotowは、キンドリルのCTOオフィスでエンタープライズアーキテクチャー担当するバイスプレジデントです。

  1. 1. Facts + Statistics: Fraud, Insurance Information Institute, Inc.