記事の要約とポイント
20年後も競争力を保つ企業は何が違うのか。モダナイゼーションの本当の成果は、新しいシステムではなく新しい文化です。
- かつて企業システムに求められたのは安定性でした。しかしAIやクラウドによって市場環境が急速に変化する現在、重要なのは「変化への適応力」です。何もしないことは安全策ではなく、むしろ将来の競争力を失うリスクになりつつあります。
- 成功する組織は、大規模な一斉刷新ではなく、小さな成功体験を積み重ねながら変革への自信を育てています。
- どんな最新システムも、いずれは古くなります。重要なのは、継続的に改善し続ける仕組みと文化を持つこと。モダナイゼーションの過程で培われた「学び続ける姿勢」「挑戦を歓迎する文化」が、企業の未来の競争力になります。
なぜ今、モダナイゼーションが急務なのか ?
長年にわたり、多くの企業にとってITシステムの最優先事項は「安定性」でした。殊に金融機関の勘定系システムをはじめとする、企業活動の心臓部となるような「ミッションクリティカル」なシステムは、24時間365日、数十年にわたって止まらず稼働し続けることが求められます。実際この半世紀近く、多くの基幹システムは、大きな変更を避けながら安定稼働を続けてきました。
ところが今日の世界で求められるのは、安定性だけではありません。AIでは数週間単位で新しいモデルが登場し、クラウド、API、エージェンティックシステムも急速に普及しており、ビジネスの前提が大きく変わりつつあります。市場環境や顧客ニーズがかつてないスピードで変化する中、企業に求められるのは、安定性だけではなく「変化への適応力」です。そして、そこで必要とされるのが、老朽化したシステムを刷新するモダナイゼーションです。
一方で、何十年も前に構築された基幹システムの多くが“ブラックボックス化”し、中身がわからなくなっています。COBOLやPL/I、アセンブラなど古い言語で書かれたシステムの内容を十分に理解できる人がほとんど社内からいなくなり、ドキュメントや運用手順が十分に残されていないケースも少なくありません。仮に古い言語に対応できるエンジニアを調達できたとしても、長年にわたる改修や機能追加を経てあまりにも複雑化し肥大したシステムは、もはや人間の認知負荷を超えています。ほとんど誰にも触れられず、なぜ無事に動いているのかもよくわからないまま動き続けてきたブラックボックスに手をつけるのは、眠れる獅子を起こすようなものです。万一障害が発生すれば、事業全体に大きな影響が及びます。ゆえに、ミッションクリティカルなシステムの変更や刷新には大きな不安が伴いますが、年老いた獅子にただ依存し続けることも、事業運営上のリスクとなり得ます。
市場を見渡せば、変化は既に始まっています。AI時代に向けて、市場も顧客の期待も変化し、ビジネス要件は変わり続けています。これまでと同じことを毎日続けるだけでは、これからの変化には対応できません。ITはもはや単なる道具ではなく、企業の資産の一部であり、自社のシステムをコントロールできなければ、自社のビジネスをコントロールすることもできないのです。
モダナイゼーションの最大の障壁はマインドセット
日本ではこれまで、多くの企業がITシステムの開発・運用をベンダーに委託してきました。AIやエージェンティックAIが現れた今、多くの企業が追いつかなければと焦りつつ、ベンダーからの提案や顧客からの要請を待つだけの状態に陥っています。 経営者がモダナイゼーションに踏み切るのを阻む障害が、3つあります。
1.失敗への怖れ
自社のシステムをモダナイズしようと考えたとき、多くの経営者が思い浮かべるのは、巨額の費用と長い年月を要する大掛かりなプロジェクト。踏み出すには勇気が必要です。実際、一度にすべてを刷新しようというような「大規模モダナイゼーション」は、長期化や予算超過に陥りやすく、成功率も決して高くありません。
そこで有効なのが、「段階的なモダナイゼーション」です。私たちはよく「玉ねぎの皮をむくように」と表現していますが、業務ごと、サービスごとに優先順位を決め、段階的に進めることです。対象を小さく区切れば、一度に背負うリスクとコストが抑えられます。さらに、成果をひとつずつ確認してから次へ進むことで、「この方法なら大丈夫」という確信を少しずつ積み上げることができるのです。
ある領域のモダナイゼーションが成功し、保守運用コストの削減や、関連会社との連携拡張といった具体的成果を目にすれば、他部門のリーダーやメンバーもITリスクへの懸念から脱却し、あとに続こうと挑戦しやすくなります。そうすれば組織全体のマインドセットが変化し、取り組みはさらに加速していくのです。
2.現状維持に甘んじる意識
金融・保険・公共インフラなどの基幹システムは、24時間365日止めることができない制約の中で稼働し続けています。システムの安定稼働は、もちろん必須です。マイクロソフトやグーグルのような巨大テック企業でも、システム障害は起きていますが、しかしその結果を数年単位で見るとどうでしょう。一度のシステム障害で起きた損失など、ものともしないような成長を遂げています。高度な技術と、それを活かして変化に対応し続ける戦略によって、競争力を確保しているからです。
実際、私たちがモダナイゼーション支援をしたある地方銀行は、多くの地方銀行に先んじて次世代勘定系システムを構築できただけでなく、そのノウハウを他行に提供することを新たなビジネスにしようとしています。ほかにもさまざまな新しい商品やサービスを企画しており、約2年半にわたるモダナイゼーションの取り組みを通じて、顧客との接点がデジタル化されただけでなく、新規事業を生み出すような「新しいことに挑戦する精神」も培われたことがうかがえます。それは新しい変化が再度訪れたときにも、先陣を切って一歩踏み出すための力であり、企業にとって大きな価値となるものです。
3.意思決定を先送りする組織風土
日本企業には特に、他社の働きかけがあるまで動かなかったり、組織内あるいは社会で自ずと合意が醸成されるまで待ったりというような、他力本願の傾向があります。しかし現代で評価されるのは、安定性よりも適応力です。そのためには、経営陣がマインドセットを変えるよりありません。
リーダーには、まず自らが行動し、変革を後押しする姿勢が求められます。全員の合意を待つだけでは意思決定は進まず、現場が変わりたいと思っていても実行に移せません。ですからリーダーが最初の一歩を示し、現場が挑戦できる環境づくりを主導する必要があるのです。失敗を罰することではなく、学びとして受け止める文化を育てることが重要です。リスクを取ってもよい、間違えてもよいと感じられる環境は、変革を支える土台になります。恐れに支配された組織では誰も行動できず、モダナイゼーションは前に進みません。
ブラックボックスをまず透明にする
キンドリルの調査によると、「モダナイゼーションに取り組む理由」として調査対象企業の34%が回答しているのが「AI機能への対応」です。 AIの進化は、モダナイゼーションをより迅速に進めるための大きな触媒にもなっているのですが、まだまだ成熟の過程にあります。半世紀近く使い続けられてきたシステムにそのままAIを投入してもうまく稼働しないばかりか、新たなリスクを生む可能性すらあるでしょう。
そこでLiNKXのモダナイゼーションのプロセスではまず、AIがブラックボックスの中で効率よく働くための構造解析を行います。自社のモダナイゼーション技術をよく病院での診療にたとえるのですが、病院では最初にX線やMRI、血液検査で内部を調べ、病変の場所と程度を把握します。システムについても同様です。ただし、いきなりAIに古いコードを読ませてしまうとハルシネーションを起こしやすいため、まずはAIを使わずに古いシステムの内部構造を分析し、その結果をAIにインプットして、細部のコードや依存関係を分析させていきます。キンドリルの調べでは、平均383個の事業上重要なアプリケーションが世界の企業で運用されているものの、54%の企業はそれらの依存関係をほとんど把握できておらず、4社に1社は文書化されていない、または実態の見えない「ダークアプリケーション」を抱えていることがわかっています。 私たちは前述の仕組みでそのような内部構造や依存関係を可視化し、人が理解できる仕様書にまとめています。 新たなブラックボックスをつくるのではなく、わかりやすく可視化することで、今後、自社システムをベンダー任せにせず、自分たちで理解し判断できる状態を保てるようになります。
分析が終わったら、医師が治療の選択肢や優先順位を患者と相談するように、問題は何か、モダナイズするとどのような変化が得られるかを、お客さまと一緒に眺め、検討していきます。「たまねぎの皮をむくように」と前述しましたが、どこから刷新を始めるかは、「ビジネス価値」と「技術的リスク」の2軸で評価して考えます。最も理想的な出発点は、現場での摩擦や課題が大きい一方で、技術的リスクが低いサービスです。そこで早期に成果を上げることで、プロジェクト全体に勢いを生み出すことができます。手をつけないものを見極めることも重要です。安定して稼働しており、保守負荷も低く、現在のビジネスニーズを十分に満たしているサービスについては、あえて手を加えません。そのような領域をモダナイズしても、得られる効果に対してコストやリスクが大きくなり、不必要な投資になってしまう可能性があります。
モダナイゼーションとは、一度きりのITシステム刷新プロジェクトではなく、未来に向けて企業が進化し続けるための文化を築く営みなのです。
AIエージェントがモダナイゼーションを拡張する
当社独自のソリューションを活用することで、ソースコードや依存関係の分析、高精度なコード変換は格段に速くなり、仕様書の生成、新しいソースコードの生成、テスト工程など多くが自動化できるようになりました。私たちはAIエージェントとほかの技術を組み合わせ、human-in-the-loopで品質を担保しながら、従来は膨大な工数を要したシステムの透明化を加速させています。さらに私たちは、これらのAI エージェントを組み合わせ、エージェンティックAIとして自律的に動作させ、品質と効率を向上させることにチャレンジしています。AIエージェントは、モダナイゼーションを「ブラックボックス化された摩擦の大きいプロジェクト」から、「透明性が高く効率的なプロセス」へと大きく変えているのです。モダナイゼーションの過程でサービスに組み込まれたAIエージェントは、その後も市場環境の細やかな変化に迅速に対応し、システムを更新し続けます。
ただしここで重要なのは、すべてをAI エージェントに任せることではありません。可視化により、お客さまが常に自分自身で判断できる状態をつくることです。空港の航空管制官は、直接飛行機を操縦するわけではありませんが、安全な運行管理のために必要な存在です。同様に、システムを健全な状態で管理するためには、システムの稼働状況を確認し、どんな処理が行われ、どんなトラフィックが発生しているのかを、人間が俯瞰的に監視する必要があります。運用ルールやセキュリティ要件といったガードレールをきちんと設定しておけば、AIエージェントも日常業務の大部分をある程度俯瞰し、自律的に実行できます。しかし、「例外管理」には特に人の判断が必要です。たとえば、AIエージェントが想定外のケースに遭遇した場合や、高額な取引を処理する場合、あるいは判断に十分な確信が持てない状況に直面した場合には、システムがアラートを発し、人間に判断を委ねます。つまりこれからの「コントロール」とは、AIエージェントの働きを細かく管理することではありません。システムの状態を常に把握できる透明性を確保し、必要なときには緊急停止ボタンを押せる状態を維持することです。
まず透明性を確保し、自律により透明性を維持し続ける。それが、変化の激しい市場環境の中での競争力となるのです。
モダナイゼーションの真の原動力は意識変革にある
モダナイゼーションに終わりはありません。企業が存続する限り、システムは稼働し続けます。半世紀近く放置してきたシステムを刷新し、また20年放置すれば、新たなレガシーが生まれるに過ぎません。ビジネスと技術が発展すれば、システムもそれに合わせて発展する。これからのシステムは進化し続けるものなのです。
私たちのサービスでは、老朽化したシステムの刷新が完了したあとも、継続的にシステムの診断を行うようにしています。そうすることで、新しい技術にも対応できます。何より大切なのは、5年後に新卒のエンジニアが入ってきてもひと目で中身がわかるほどに、システムが可視化され続けていること。私たちが目標とするのはモダナイゼーションだけではなく、システムが次世代にとってもクリアなものであるよう、永続的に透明性を確保することです。
リーダーシップにも、同様のことが求められます。先を見据えるリーダーは、「現状維持こそが安全な選択である」という考え方がもはや通用しないことを理解し、単に目先の課題を解決するのではなく、20年後もその先もサービスを継続して提供するための長期戦略を描いています。そのようなリーダーは、変革のプロセスをIT部門に丸投げすることなく、自ら深く関与し続けます。「進化し続ける」ことが業務効率を高め、顧客への提供価値を向上させる「事業成長の重要な鍵」であることを理解しているからです。
目まぐるしく技術が進化する中では、ただ最新システムを備えた企業が成功するわけではありません。変化に適応し、進化し続ける組織へと生まれ変わることです。刷新したシステムも、いずれは古くなり、捨て去られるかもしれません。しかし、モダナイゼーションの過程で培われた変化や挑戦に前向きなカルチャーは、企業内に残り続けます。モダナイゼーションとは、一度きりのITシステム刷新プロジェクトではなく、未来に向けて企業が進化し続けるための文化を築く営みなのです。
お問い合わせはこちら