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記事の要約とポイント

モダナイゼーションは、技術だけでなく人材の課題でもあります。成功の鍵を握るのは、異なる専門性や部門間をつなぐ立場の人材を育て、人とテクノロジーをともに進化させることです。

  • これからのリーダーに求められるのは正解を示すことではなく、進みながら道を見いだす「ウェイファインディング」です。 不確実性の高い時代には、試行錯誤と学習をくり返しながら組織を導くことが重要です。
  • 継続的なモダナイゼーションを支えるのが「ブリッジャー」の存在です。 異なる部門や専門性、立場をつなぎ、人々の協働を促す人材が、複雑な課題を組織の力へと変えます。
  • 組織は、専門性と幅広い視野を兼ね備えた「T型人材」を意図的に育てる必要があります。 部門横断の経験や新たな挑戦を通じて、人と人、組織と組織をつなぐ力を組織全体に広げていくことが重要です。

先日、組織運営がアジャイルであることで有名な、あるグローバルテクノロジー企業の経営陣と、お話をする機会がありました。彼らはこれまで革新的なアイデアを次々と生み出してきましたが、最近になって壁に突き当たっていました。新しいソリューションを創出する力は依然として高いものの、それを事業全体に広げ、成果として定着させることに苦労しているというのです。 

同じような状況が、多くの企業で散見されます。AIの登場によって、変革のあり方は大きく変わりました。かつては特定の部門だけの課題と考えられていた変革が、今では組織全体に関わるテーマになっています。たとえば「モダナイゼーション」という言葉は、かつてはIT部門がコスト削減やリスク低減を目的に行う、老朽化したシステムの更新のことを指していました。しかし現在では、企業の成長を支え、環境変化に迅速に対応するための柔軟な基盤を構築することにまで、その役割が拡がっています。

 そのグローバルテクノロジー企業も、イノベーションを生み出すだけでは十分ではないことに気づきました。生み出した成果を組織全体で活用し、拡大していく仕組みを意図的に進化させなければ、それ自体が成長の足枷となってしまうのです。これは、単なるテクノロジーの問題に留まらぬ企業全体に関わる経営課題で、財務面以外にも影響します。

モダナイゼーションで大切な「人」の要素

 調査によれば、経営層の30%がモダナイゼーションの遅れによって人材の定着に課題が生じた、と回答しています。言い換えれば、モダナイゼーションはテクノロジーの課題であると同時に、人材の課題でもあるのです。この結果は特に驚くべきものではありません。テクノロジーの役割が変化していく中で、モダナイゼーションへの取り組みは、企業がAI活用にどれほど本気で向き合っているかを示す重要な指針です。それが自らの仕事や将来にどのような影響を及ぼすのか、社員も敏感に感じ取っています。

 人材が組織に留まるのは、自分の仕事に意味を見いだし、その中で果たす役割を理解できたときです。AIがどのような価値を生み出すのか、なぜ変化に伴う混乱やリスクを受け入れる価値があるのかを、企業が納得感のあるストーリーで示せない限り、人材は「この会社で働き続けられるか」ではなく、「働き続けたいと思うかどうか」でその企業を判断することになります。

 人々が変化に主体的に関わり続けるためには、システムの変革とあわせて組織の仕組みそのものも見直さなければなりません。こうした再設計を怠ることは、組織が今日の事業環境の変化に適応できていないことを示すようなものです。どのような変革でも、人々がその変化の中に自分自身の居場所や役割を見いだせなければ、やがて関与意欲は失われていきます。そして、継続的な変化が求められる現在、変化に伴う混乱や不確実性は避けて通れる一時的なものではなく、企業が「常に向き合うべき現実」となっています。

 こうした状況は、多くのリーダーがこれまで十分に認識していなかった、あるいは認めたくなかった現実を浮き彫りにしています。経営陣は同じチームの一員ではあっても、ワンチームとして機能しているかというと、必ずしもそうではないということです。先行きが比較的予測しやすかった時代には、トップダウン型の組織運営が十分に機能したかもしれません。多くの企業にとって、実際トップダウンであることが、長年有効でした。しかし今日の競争環境では、一気にすべてを移行する「ビッグバン型」の変革ではなく、テクノロジーや業務プロセス、働き方を絶えず見直し続けることが求められており、従来型の組織運営モデルは限界を迎えつつあります。

 変化のスピードが速く、正解が見えにくい状況では、経営陣だけで作業分担し、それぞれの担当領域で対応しているだけでは間に合いません。何が起きているのかを理解し、次に何をすべきかを判断し、それを組織全体で実行するためには、異なる視点や専門知識、さらには現場社員の知見を持ち寄る必要があります。AIの進化は、この必要性をさらに高めています。テクノロジー投資や導入の意思決定に関わる人が増え、変革は一部門だけで推進できるものではなくなっています。企業が成果を上げるためには、部門横断で協力しながら意思決定し、変化を実行していくことが不可欠なのです。

モダナイゼーションに必要なのは、進みながら道を見いだすこと

 長年、多くの企業の経営陣が、変革を「道筋を描く取り組み」として捉えてきました。目的地を定め、そこに至るルートを決め、組織をその道に沿って歩むよう動かすという考え方です。

 しかし、継続的なモダナイゼーションはそのようには進みません。とりわけAIに関しては、テクノロジーも活用方法も発展途上にある段階で、事業に大きな影響を及ぼす判断を迫られます。だからこそ、初めからひとつの選択肢に絞り込むのではなく、複数の可能性を残したまま小さく試し、すばやく学ぶことが重要です。そして、新たなデータや知見が得られれば、それに応じて方針を見直す柔軟性も求められます。

 私はこれを「ウェイファインディング(進みながら道を見いだすこと)」と呼んでいます。

 ウェイファインディングでは、組織が経営陣に求めるものも変わります。これからのリーダーシップで重要なのは、答えを与えることよりも、組織の人々がともに答えを見いだせる環境を整えることです。

 その必要性は、企業内で意思決定を担う人々の広がりにも表れています。キンドリルの「2026年モダナイゼーション・レポート」によると、モダナイゼーションの予算と意思決定には、CIO(58%)、CTO(51%)、CFO(39%)、取締役会(32%)が関わっています。つまり成功には、技術的な実行力を高めるのと同様に、部門横断の足並みをそろえることが求められます。AIへの大規模投資においても、事情は同じです。どの部門も全体像を単独では把握できないからこそ、十分な情報に基づく判断を下すには、異なる視点を持ち寄らなければなりません。

 当然、そこには対立が生まれます。しかし、リーダーは対立を避けようとするべきではありません。多くの場合、革新的な解決策とは、私が「創造的摩擦」と呼ぶ対立を経て生まれるものだからです。「創造的摩擦」とは、さまざまな意見を交わし、意見の相違に向き合うことで、よりよい答えを生み出していくことを指します。 

 問題は多くの組織が、「創造的摩擦」のための力をまだ培っていないことです。意見の相違が生じると、リーダーはトップダウンで決めてしまったり、判断そのものを避けたりします。波風を立てないよう同調し、思考を深める建設的な議論を避けることも少なくありません。しかしそれでは、不確実性が前提の環境においてはうまく行きません。必要なのは、意見の相違を生産的なものに変える方法を学ぶことです。

 そこで不可欠になるのが、立場や考え方の違いを「橋渡し」する力です。 

これからのリーダーシップで重要なのは、答えを与えることよりも、組織の人々がともに答えを見いだせる環境を整えることです。

「橋渡し」の重要性

 たとえばエンジニアは、ITアーキテクチャを理解していても、顧客についてはくわしくないかもしれません。逆にプロダクト責任者は顧客を理解していても、テクノロジーにはくわしくない。そして、外部のスタートアップは有望な新技術を持っていますが、大企業の業務上の制約についてはほとんど経験がないかもしれません。

 そうした異なる世界をつなぐことができる人を、私は「ブリッジャー」と呼んでいます。

 ブリッジャーは、3つの役割を担います。第一は、問題解決に必要な人材やパートナーを見極め、招集する「キュレーション」です。第二は、異なる背景を持つ人々が協働できるよう、共通の言葉と相互理解を築く「翻訳」です。第三は、共通の目的と業務の進め方に沿って、関係者が一丸となって動けるようにする「統合」です。

 そのために必要なのが、状況を読み解く力です。優れたブリッジャーは、人々が意見を異にしたり、抵抗しあっているように見えるとき、必ずしも人間関係が原因となっているわけではないことを理解しています。多くの場合、人はそれぞれの立場に固有の優先事項や制約に応じた反応をとるものです。ブリッジャーは違いを調整しようとする前に、まずそれぞれの背景を読み解きます。

 拙著『Genius at Scale』では、ブリッジャーの役割を明確化しました。デルタ航空が生体認証機能を開発した際、デルタ航空のイノベーションラボを率いたニコール・ジョーンズは、その一例です。ニコールは、同社のIT部門、外部のスタートアップ、そして政府関係者をまとめる立場にあり、三者三様に合理的ではあるものの、大きく異なり、ときには相反する優先事項や懸念がありました。デルタ航空のIT部門は、大規模システムの信頼性に責任を負い、政府関係者は安全性とコンプライアンスを重視し、スタートアップには、手順がひとつ増えるたびに資金が消費され、事業継続に不安が出るという事情がありました。

 ここでのニコールの役割は、そうした違いや、違いから生じる対立を消し去ることではありませんでした。なぜ違いが生じるのかを理解し、それぞれが相手の抱える制約を認識できるようにするとともに、共創を阻む障壁に対処できるよう、共通理解と問題解決の土台を築くことです。 

 継続的なモダナイゼーションにも、こうした橋渡しが欠かせません。適任の専門家を集めるだけでなく、相互の信頼とコミットメントに基づく関係を築き、互いに影響を与え合えるようにする必要があります。そのうえで、立場によって異なる期待や仕事の進め方、組織構造を尊重しながら、共通の目的と協働の仕組みへと結びつけることが求められます。

 しかし、ほとんどの組織において、ブリッジャーとなれる人材が不足しています。現状の課題は、組織内ですでにブリッジャーとして働いている人を見いだすだけでなく、橋渡しを担うリーダーを育て、その力を組織全体に広げていくことです。 

注意すべきはブリッジャーの燃え尽き

 「ブリッジャー」という言葉は使っていなくても、多くのリーダーは組織の中でその役割を果たしている人を把握しているでしょう。複雑なプロジェクトが立ち上がると、「この案件にはあの人が必要だ」と真っ先に名前が挙がる人です。関係者をまとめ物事を前に進める術を知る、あの人です。

 しかしブリッジャー自身にとって、有能であることは重荷です。仕事ができる人ほどあちこちで頼りにされ、負担が集中するのです。その割にプロジェクトが成功しても、その貢献は見えにくく、ほかの成果の陰に埋もれてしまうこともあります。技術チームは開発や導入の成果を評価され、事業部門はビジネス上の成果を称賛されるでしょう。一方で、何か月にもわたって両者の足並みをそろえ、意見の違いを調整し、問題の発生を未然に防いできた人の働きは、表に出にくいのです。

 継続的なモダナイゼーションを目指す組織にとって、これは持続可能な状態とは言えません。業務運営上の課題であるだけでなく、人材定着にも影響を及ぼしかねません。複雑な状況を乗り越える力を持つ人ほど、困難な調整役を担わされ、その一方で貢献が目に見えにくく、十分に評価されないことが少なくないからです。橋渡しを、ひと握りの優れた人材の努力に頼り続けることはできません。組織は、すでにその役割を果たしている人を見出すと同時に、橋渡しの力そのものを組織全体に広げていく必要があります。

T型人材を育て、見出す

 手がかりは、優れたブリッジャーたちのキャリアにあります。彼らの多くは、私たちが「ジグザグ型キャリア」と呼ぶ経歴を歩んでいます。複数の部門を経験したり、技術職と事業職の間を行き来したり、あるいは慣れない環境での仕事に挑戦したり…というキャリアです。言い換えれば、異なる立場や制約のもとで物事を見る経験をくり返し積み重ねてきたのです。橋渡しの力は、まさにそうした実践を通じて培われます。

 だからこそ組織は、「T型人材」を意図的に育成し、採用していくべきです。「T型人材」とは、ひとつの分野で確かな専門性を持ちつつ、ほかの領域についても十分な理解を備え、効果的に協働できる人材を指します。

 これは特にテクノロジー人材にとって重要です。専門性は今後も不可欠ですが、AIの時代に突入し、ほぼすべての企業がテクノロジー企業となりつつある今、技術リーダーには、製品、顧客、業務、ビジネスモデルといった複数領域を横断して仕事を進める力がますます求められています。異なる部門や職務を経験し、部門横断の取り組みに携わりながら、組織のさまざまな領域に触れることは、モダナイゼーションに必要な状況理解力を養う有効な手段です。

 こうした機会は、将来を期待される人材が、ひとつの役割の枠を越えて学び、成長し、貢献するための重要な機会にもなります。ただし重要なのは、安心して挑戦し、学べる環境を整えることです。新しい役割や慣れない仕事への挑戦は、人にこれまで得意としてきた範囲を越えた働きを求めます。だからこそ組織は、人材が失敗を重ね習熟するまでの時間を受け入れ、それを成長につなげるための助言や支援を提供しなければなりません。

 橋渡しの仕事を進めやすくするためには、チームで共通の問いを持つことも有効です。プロジェクトを始める前に、まずは関係者に、解決すべき問題は何か、なぜその解決が重要なのかを言葉にしてもらうとよいでしょう。そのうえで、どんな専門性が必要か、問題が解決すると誰が影響を受けるのか、どこに相互依存関係があるのか、予期せぬ結果が生じる可能性はないか、といった問いをもとに検討を進めます。最終的なゴールは、その仕事がなぜ重要なのか、誰が参加すべきなのか、そしてどのように協働するのかについて、共通認識をつくることです。

AI時代の橋渡しは経営トップから始まる

 組織全体で橋渡しの力を高めることは重要ですが、リーダー自身もその姿勢を示さなければなりません。モダナイゼーションが社員の役割や将来の見通しに影響するときは、なおさらです。

 AIは、このリーダーシップの課題をいっそう鮮明にします。組織が進むべき方向を模索する中でリーダーは、テクノロジーに何ができるのか、そしてそれが従業員にどのような影響をもたらすのかという、二つの不確実性に同時に向き合わなければなりません。

 AI活用で大きく前進している組織では、CEOや経営幹部が自らAI技術を試し、理解を深めていることが少なくありません。重要なのは、リーダーも当事者としてツールを使い、その限界に向き合いながら、何を知っていて何を知らないのかを率直に語る姿を従業員に示すことです。

 そうした試行錯誤と、自らの不確かさを隠さない姿勢は、リーダーへの信頼を高めます。また、従業員が感じている不安や迷いを、リーダー自身が理解する手助けにもなります。

 AI教育にも同じ発想が必要です。現在のAI教育の多くは個人を対象として設計されています。しかし、AI活用による企業価値は、個人がツールを使いこなすことではなく、チームが部門を越えて仕事の進め方そのものを変えることで生まれます。 

 目指すべきは、単にツールの使い方を教えることではなく、それを仕事の中で適切に活用する判断力を養うことです。実際の業務課題を題材に、日頃から一緒に働くチーム単位で学ぶ機会を設ければ、AIに何ができるかだけではなく、AIができることをチームとしてどのように仕事に取り入れるかを考えられるようになります。そうすることで、従業員は変化を一方的に受け入れるだけでなく、自ら変化をつくり上げる側に回ることができます。 

社員それぞれが未来をつくる当事者に

 だからこそ、変革においては人材への配慮が欠かせません。従業員が変革を自分たちに一方的に押しつけられるものだと感じたり、組織が新しい働き方に必要な準備を十分に整えなかったりすれば、自分たちがその企業の未来の中でどのような役割を果たせるのかに不安を抱くのも無理はありません。経営層の約3分の1が、モダナイゼーションの遅れと人材定着の課題を結びつけているという事実は、この問題の重要性を物語っています。人材戦略をテクノロジー戦略の後回しにしてはならないのです。

 変革を効率化の観点だけで正当化することにも注意が必要です。顧客にどのような価値を提供しようとしているのか、あるいは組織としてどのような使命を果たそうとしているのかを示さないまま効率化ばかりを強調すれば、社員にはコストや人員削減の話として受け取られてしまうでしょう。効率化はもちろん重要です。しかし、それだけが価値ではありません。

 どんな企業においても、継続的なモダナイゼーションとは、テクノロジーだけの取り組みとして持続できるものではありません。人の仕組みとテクノロジーの仕組みは、ともに進化させる必要があります。これは組織変革において長く変わらない原則であり、AIの時代には、それを見失ったときの影響がこれまで以上に大きくなります。 

 そこで経営陣が自らに問うべきなのは、「これまでできなかったことで、組織の未来において何ができるようになるのか」です。従業員が変革に意味を見出し、組織が変わる中で自分がどのように学び、貢献し、成長できるかを理解すれば、継続的なモダナイゼーションは技術戦略であるだけでなく、人材戦略にもなります。それはこの企業にとどまり、次の未来をともにつくりたいと思う理由にもなるのです。

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