この記事の内容

記事をダウンロード

「AIを活用する銀行」とは、どのようなものでしょうか?

 その「次のスタンダード」を目指し、金融業界では熾烈な競争が続いています。しかし、「AIを活用する銀行」の最終形を、完全にイメージできている人は誰もいません。では、いわば暗闇の中で、銀行はどのように舵を取るべきなのでしょう?ひとつ確実なのは、この変革は、一社単独では成し遂げられないということです。私たちNatWestのエンジニアリングチームは、AIエージェントを社内で試験導入し、一定の成果を上げることができました。しかし、その経験を通じて、むしろ一層強く意識するようになったのです。さらなる加速のためには、進むべき道を照らしてくれる外部パートナーの存在が不可欠だと。

 大企業にとって、AIは単なるテクノロジーではありません。AIの導入には組織と企業カルチャーの変化が必要ですし、AIの導入がまた、そうした変化を生み出します。当行の取り組みは外部から見れば大胆なものに見えるかもしれませんが、私たち自身はほかの選択の余地がないと考えています。AIの技術はすでにここにあり、お客様もAIで何ができるのかを理解しています。迅速に動かなければ、競合に先を越されるのは明らかです。金融という規制の厳しい業界においてスピードを優先することは、一般的なイメージに反するかもしれません。しかし、私たちにとって、覚悟とはそういうことです。

 変革スピードを重視する姿勢は、あらゆる階層の判断と意思決定に大きなプレッシャーを与えます。つまり、組織のあらゆる場所でリーダーシップが必要とされるということです。NatWestでは、経営層がAIへの取り組みを非常に強く推し進めており、CEOもAIが持つ力と可能性について、一貫したパワフルなメッセージを発信し続けています。同時に、私たちはパートナーの中にもリーダーシップを見出しています。それは技術力に関することだけではなく、変革を起こそうとする意欲やプロジェクトの推進力においてもです。ときには、リーダーシップを「外部から取り込む」選択をすることもあります。後述しますが、当行では、既存の部署とは期待値も働き方も大きく異なる、AI研究者のチームを丸ごと採用し、新たなチームとして迎え入れています。

AIエージェント導入の初期の成功がもたらした効果

 NatWestがAIエージェント活用に着手した最初のきっかけは、新規顧客の管理・審査業務、いわゆるデューデリジェンスの負荷が急増したことでした。2030年までに金融機関が直面する不正行為は、153%増加すると予測されています1。よってこうした人手で行う確認作業に、顧客ひとりあたり通常48時間と、ますます時間がかかるようになっていました。

 そこで我々は、AIエージェントにこのデューデリジェンスを担わせ、人と同等の精度を実現することを考えました。開発は、すべて自社内で行っています。NatWestは「エンジニア・ファースト」戦略のもと、知的財産の多くを自社のITエンジニアの力によって生み出してきました。技術を「買う」よりも「構築する」ことを重視し、銀行内で使用するコードの70%を自社開発することを、これまでも、そしてこれからも目標としています。本件においても、社内の技術チームが、新規顧客の精査をひとりあたり9分で処理するAIエージェントを構築しました。精度やリスク水準は、人手による確認と変わりません。

 この成果には、誰もが目を見張りました。不安よりも、期待のほうがはるかに大きかったと思います。AIエージェントの効果は非常に大きく、しかもわかりやすいものだったので、行内の空気は一変しました。電気自動車を初めて運転して、すぐ「これなら欲しい!」と思うのと似た感覚です。

金融という規制の厳しい業界においてスピードを優先することは、一般的なイメージに反するかもしれません。しかし、私たちにとって、覚悟とはそういうことです。

最適な外部パートナーと協働する

 AIエージェントの導入成功は、開発チームにとって誇るべき成果でした。「Kyndryl Readiness Report 2025年版」でも予測されている通り、AIエージェントの幅広い効果について理解が進めば、世界中の金融機関で活用が進むでしょう。私たちは、そうした流れの先駆けであるという自負があります。しかし、変革の規模をさらに拡張するとなると、大企業であっても単独では成し遂げられません。NatWestは、外部パートナーを活用する選択をしました。このアプローチは、他の企業にとっても、AIエージェントを迅速かつ効果的に導入する際の参考になるはずです。まず重要なのが、パートナーを慎重に選ぶことです。NatWestでは、金融機関のAI変革の難易度や複雑性、不確実性を鑑みて、パートナー選定の基準そのものから見直しました。

 これまでは、提供される機能や技術力を基準にパートナーを選んできましたが、今回、それらの要素以上に重視したのが、パートナーとの共存関係です。PoC(概念実証)と、複数の地域や事業部門をまたいで行う本格導入との間には、大きな差があります。特に、比較的新しく、検証不十分な技術の導入においては、その差が顕著に現れます。急速に技術が変化していく中で、真新しい能力を構築しようという長期プロジェクトは、必ずどこかで行き詰まる局面を迎えます。そんなとき、ただ技術力のあるパートナーでは足りません。ともに柔軟に対応し、状況に応じて歩調を合わせられる関係性が必要です。つまり、お互いを信頼し、目指す方向や志を共有できる相手と組むことが重要なのです。

 パートナーとしてAWSを選んだ大きな理由は、ここにあります。私たちが目指していたのは、AIを活用し、銀行全体で顧客データを一元的に把握できるプラットフォームへと刷新することでした。NatWestは、AIの活用と展開で業界をリードしたいと考えていますが、必要なスキルや能力を常に自社だけで備えられるわけではありません。一方でAWSにとっても、自社のAI技術が持つ変革力を示せる金融業界のパートナーは重要です。双方にとって意味のある関係が、ここで成立します。このパートナーシップを成功させたい理由は、契約書に記されている内容を超えたところにあります。

 NatWestとAWSは、企業カルチャーの面でも高い親和性があると確信していました。しかし、パートナーシップが機能していないと判断したときには、ためらわず担当チームの変更を求めるべきです。短期的な取り組みではなく、長い旅路を前提に変革に臨んでいるからです。

 さらにNatWestは、英国の金融業界で初めて、OpenAIと戦略的に協業しました。ここでも、私たちがパートナーに求めているのは、ささやかな改善ではありません。私たちが求めているのは変革、品質、そしてスピードです。変革、質、そしてスピードです。OpenAIとの協業における最大の狙いは、プロダクト開発にあります。今後重要度が増すであろう当行のチャットボットは、OpenAIが開発したモデルを活用しています。OpenAIと緊密に連携することで、そのモデルを活用した優れた製品やサービスを、より速く市場に届けることができます。くわえて、パートナーシップを結ぶことで、開発段階の議論にも関与できる立場を得ることができました。英国最大級の銀行として、利用する製品やサービスが自らのガバナンス基準を満たし、適切なものであるかを確認できることは、極めて重要です。

パートナーの力を内側に取り入れ、リーダーシップを発揮する

 顧客に優れた成果をいち早く届けるため、NatWestでは深い技術的専門性を社内に備えることを重視し、ほかの銀行とは一線を画しています。今回のAI導入に関しても、テクノロジーを牽引する中核チームを行内に立ち上げ、AIに精通し、その専門知を既存の組織にもたらすことのできる人材を迎え入れました。

 6月には、その一環として30人のAI専門家を採用し、NatWestとして初となるチーフAIリサーチオフィサーも任命しています。その結果、厳格なガバナンスのもとで運営される組織の中核に、極めて高い能力を持つAI専門チームが据えられる形が整いました。このチームの存在により、実現し得る変革の規模やスピードについて、これまでとは異なる視点が組織にもたらされています。

 私たちは、このAI専門チームが意欲やモチベーションを保ちながら、変革のスピードが想定どおりに進まない場面でも過度なストレスを抱えずにいられるよう、環境づくりに細心の注意を払っています。彼らには組織を変えてもらうことを期待していますが、それが容易な挑戦ではないことも十分に理解しているからです。その点で、前述のチーフAIリサーチオフィサーの役割は極めて重要です。彼女はグローバルな全社ミーティングやウェブ配信など、さまざまな場でチームの取り組みを継続的に発信し、AIによって私たち自身の働き方がどのように変わっていくのかを、組織全体に伝えています。

 AWSやOpenAIとの協業、そしてほかのテクノロジー企業からの人材受け入れなど、私たちはこれまで、技術や人材を取り込むことに重点的に取り組んできました。次は、その力を組織全体に広げる段階です。AIを活用する銀行としては、すべての職員がAIを用いて自身のスキルを補完できるようにしなければなりません。そのためには、AIの使い方を学ぶ機会を設けていく責任があります。職員のスキル向上は、成長戦略全体の中でも重要な柱となっています。AI活用のスキルを身につけることで、営業の最前線に立つ職員は、顧客と向き合う時間をより多く確保できるようになるでしょう。ITエンジニアは、より創造的な仕事に取り組めるようになります。私たちが開発するプロダクトのあり方も変わっていくでしょう。

 同時に、リーダーシップに求められるものも大きくなります。AIやAIエージェントは強力なツールですが、それだけで成功が保証されるわけではありません。重要なのは、それらをどのように活用し、どのように評価するかです。リーダーには、テクノロジーに対して批判的思考を適用し、期待どおりに機能していない兆候を見極め、適切に警鐘を鳴らす役割が求められます。顧客や銀行、ひいては経済全体のためにも、私たちはAIと共に前進しなければなりません。その力を最大限に引き出すには、テクノロジーの可能性と、人間ならではの判断力や洞察を組み合わせることが不可欠です。

お問い合わせはこちら

メール

記事をシェアする

記事をダウンロード