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記事の要約とポイント

ロボットは、人とAIの共生を最も具体的な形で実現する存在として、工場から職場、さらには家庭へと活躍の場を広げつつあります。

  • 人の能力を拡張する:危険な作業や反復作業を担い、人手不足の解消を支援するとともに、AI活用を支える質の高いデータを継続的に収集する
  • 現実世界でAIを機能させる:強化学習の進展によって、ロボットは未知の環境にも柔軟に適応し、人と協働しながら自律的に行動できるようになりつつある
  • 人を支える存在へ進化する:将来的には、コンパニオンロボットが孤独の緩和や健康維持、人と人とのつながりの強化に貢献する可能性を秘めている

大規模言語モデル(LLM)など多くのAIは、パソコンの画面やキーボードを通じて利用されています。しかし今、AIはロボットという物理的な姿を得て、現実世界で動き始めています。

それらが職場や日常生活でより身近な存在となれば、AIと人の新たな共生時代が始まります。暮らしや働き方が大きく変わり、魅力的な可能性が広がる一方で、新たな倫理的課題にも向き合うことになります。しかし、この変化を適切に導くことができれば、ロボットは企業だけでなく、社会全体にもこれまでにない価値をもたらすでしょう。

フィジカルAIの原点:産業用ロボット

 ロボットはこれまで、自動化を実現するツールとして活用されてきました。しかし現在では、特定の高度なスキルを持つ「チームメイト」として、職場に加わるようになっています。ロボットは、人間やAIの力が届きにくかった危険作業、遠隔地の業務、人手の足りない現場にも活躍の場を広げます。たとえばクリティカルインフラの現場では、物理空間を移動しながらデータを収集し、異常を検知し、意思決定を支援します。さらに、人が危険にさらされる前に必要なワークフローを起動することもできます。反復作業を安定してこなせる点も、大きな強みです。高齢化によって働き手が減り、身体的負担の大きさから人材の定着も難しい労働集約型産業において、ロボットは現場の負担を軽減する有力な手段となります。

 現在稼働しているロボットの約80%は、産業分野で利用されています1。放射線量の高い区域、瓦礫が散乱する現場、通信が不安定な場所、狭く入り組んだ空間など、人が立ち入れない、あるいは立ち入るべきではない環境でも遠隔から作業を行えるロボットが、人質事件への対応や産業施設の清掃、爆発物処理、火災後の建物調査など、さまざまな現場で活躍しています。福島第一原子力発電所でも、ロボットは廃炉計画を支える重要な存在です。人が立ち入れないほど放射線量の高い区域で、各種測定や写真撮影、サンプル採取などを行っています。

 ロボットは、派手さこそないものの、企業活動に欠かせない業務で人間を超える力を発揮します。たとえば、人間のインターンが工場の点検を担当し、メモを残したとしても、その情報が適切に集約され、必要な人に共有されるとは限りません。点検にあたるのが工場長であれば、異常の兆候であるノイズとそうでないものとを判別できるでしょう。しかし、その工場長が退職すれば、その知見も失われてしまいます。一方、ロボットは工場内を巡回しながら、人間には感知できない音まで捉え、毎日同じ場所、同じ条件でデータを収集し続けることができます。その結果、質の高い時系列データが蓄積され、AIの学習基盤として活用できるだけでなく、将来起こり得る異常の予兆を捉えることにも役立ちます。効果的なAIシステムを構築するうえで、正確で質の高いデータが不可欠であることは、いまや広く認識されています。ヒューマンエラーや主観に左右されることなく、安定してデータを収集できるロボットは、極めて頼りになる存在です。

ロボットは工場から日常生活で接する存在へ

 約2年前までは、ほとんどのロボットがモデル駆動型でした。特定の作業を実行できるようにするためには、数百万行ものコードを書き、何ヶ月、場合によっては何年にも及ぶ試行錯誤を重ねる必要がありました。それだけの時間と手間をかけてやっと、特定の環境での特定の作業が可能になり、工場の床にボルトで固定され、ひとつの作業をただ厳密にくり返します。ひとたび工場から出れば、役には立ちません。

 しかし現在、ロボットはデータ駆動型へと進化しています。AI、とりわけ強化学習の活用によって、ロボットは試行錯誤を自ら繰り返しながら学習し、未知の環境に適応する能力を飛躍的に高めました。膨大な計算能力を活用できるようになったことで、人間の特定の動作を記録したアニメーションを物理シミュレーターに取り込み、同じ動きを何百万回もくり返して学習させることができます。その学習結果を反映させたロボットの動きは目を見張るほど自然で、安定性や俊敏性も、これまでは考えられなかったレベルに達しています。さらに短期間かつ低コストで学習し、未知の環境にも柔軟に対応できるようになったことで、ロボットは工場の生産現場を離れ、さまざまな職場や家庭へと活動の場を広げるようにもなりました。

 こうした変化を受け、今後数年のうちに、新しい世代のサービスロボットが登場すると考えられます。現在の産業用ロボットよりも、柔軟性と汎用性の高いロボットです。産業用ロボットは、人と隔離された専用エリア内で稼働することが一般的ですが、サービスロボットは、人による監督を受けながら、人のすぐ近くで業務を担います。こうしたサービスロボットの最初の導入先として適しているのは、ホテルやクルーズ船、リゾート施設などでしょう。ある程度管理された環境下で、人と接しながら働くことになるからです。推計では、2024年に約19万9,000台の業務用サービスロボットが新たに導入されました2。韓国・ソウルの空港では、荷物を運ぶロボットが出迎え、ラーメン店では食器を片付けるロボットが働いています。こうしたロボットは、コロナ禍以降さらに深刻化したサービス業の人手不足を補う有力な手段となるでしょう。

日常生活に入り込むロボットは、AIの進化を切り拓く最前線の存在として、コンピューターの画面上や職場内だけではなく、現実世界にAIのメリットを落とし込みます。

現実世界で機能するAIの最前線でロボットの実用化を進める

 日常生活に入り込むロボットは、AIの進化を切り拓く最前線の存在として、コンピューターの画面上や職場内だけではなく、現実世界にAIのメリットを落とし込みます。生成AIや自然言語インターフェースを搭載したロボットは、「昨日と比べて何が変わりましたか」という質問に答えられます。たとえば発電所であれば、「14番ポンプ付近で検知された熱異常は何ですか」といった質問にも対応できるでしょう。ロボットに現実世界を認識させ、自律的な行動をさせるために、以下のような複数のAIレイヤーが連携して機能しています。

  • 認識:物体を見る、聞く、感知する、検出する、計器を読み取る、危険を認識する

  • ナビゲーションと自律制御:空間を地図化する、障害物を回避する、移動経路を計画する、充電ステーションへ戻る、ミッションをくり返す

  • 物体操作:対象物のつかみ方、開け方、運び方、置き方、あるいは対象物を用いて何かをする方法を理解する

  • 予測分析:点検で得られたデータを警告、傾向分析、メンテナンスの提案へつなげる

 ロボットは、現実世界におけるAI活用の最前線です。ロボットを進化させていくことで、私たちはAIの新たな可能性を試し、さらなるイノベーションを生み出すことができます。しかし、ほかのAIと同様に、ロボットというテクノロジーそのものは価値の半分にすぎません。本当の価値は、それをいかに効果的に運用できるかによって決まります。AI導入で多くの企業が苦労してきたのも、まさにこの点です3。ロボット導入で同じ轍を踏まないために、リーダーは次の3つに優先的に取り組む必要があります。

ワークフローを最適化する – まず必要なのは、ロボットを前提としたワークフロー全体を設計することです。自律的に稼働するロボットを活用するには、巡回ルートの標準化や搭載機器の選定、データ収集や分析、アラート通知の仕組みにくわえ、保守管理システムや資産管理システムなど既存の業務基盤との連携まで含めて考えなければなりません。人間とAIエージェント、そしてロボットが協働する未来を見据えれば、個々の作業を改善するだけでは不十分です。ワークフロー全体を再設計できれば、2030年までに米国だけでも約2兆9,000億ドルの経済価値が創出される可能性があります4

適切なインフラを整備する – ロボットが十分に能力を発揮するためには、それを支えるインフラも欠かせません。なかでも重要なのが、高速で安定したネットワーク環境です。ロボットはクラウド上のAIと連携しながら、状況を判断し、指示を受け、画像を処理します。たとえば見慣れない障害物に遭遇した場合には、その画像をクラウドへ送信し、「これは何か」と問い合わせることができます。しかし実際には、多くの製造現場で十分な通信環境が整備されておらず、高速Wi-Fiが導入されていても利用を制限している企業が少なくありません。一方、人と同じ空間で働くサービスロボットにとって、高速ネットワークは欠かせない基盤です。

社員教育と変革管理を最優先する – ロボットを職場に導入するうえで、社員教育は欠かせません。その考え方自体は、他のAI導入と大きく変わりません。まずはロボットに何ができ、何ができないのか、そして人とどのように協働するのかを理解してもらうことが重要です。その考え方自体は、他のAI導入と大きく変わりません。まずはロボットに何ができ、何ができないのか、そして人とどのように協働するのかを理解してもらうことが重要です。実際、多くの企業はポスターや説明会を通じて社員の理解を深めています。ある企業では、新しいロボットをまず社員食堂で披露しました。社員たちがロボットとの記念撮影を楽しみ、その存在に親しみを持った頃を見計らって、実際の現場への配備を始めたのです。

 ロボット導入にはさまざまな不安がついてまわります。ひとつは監視への懸念です。ロボットにいずれ仕事を奪われるのではないかと、心配する人もいるでしょう。しかし、一般的には、ロボットが代替するのは業務そのものではなく、その業務を構成する個々の作業です。社員がロボットを歓迎するかどうかは、ロボットが担当する作業を自身がどう感じているかということと、密接に関係しています。たとえば物流現場でのコンテナからの荷下ろしは、最も敬遠される作業のひとつですから、ロボットが担うことになれば、多くの作業員が喜ぶでしょう。一方、苦であると感じられない作業をロボットが担う場合には、「将来、自分の業務が変わってしまうのではないか」「仕事がなくなるのではないか」という不安が生まれます。こうした不安に対する最も効果的な対策は、ほかのAIツールを導入する場合と同様で、教育やリスキリング、資格取得の支援の充実などです。つまり、倉庫の作業員に対して、ロボットオペレーターの資格取得を支援するというようなことです。単調で、汚染や危険を伴い、身体的な負担も大きい仕事はロボットに任せ、人は複数のロボットを監督し、データを分析し、対応策を立案し、より高度な意思決定を行う。そうした付加価値の高い役割へとシフトしていくことが理想です。

 ロボット産業にも、改善すべき点がありますまず、ロボットができることについて、もっと現実的な説明をしなければなりません。現時点では実現できないことまでできてしまうかのような動画をつくるのは、もうやめるべきです。また、汎用ロボットを兵器として利用したり、人間や動物に危害を加えたり威嚇したりすることを認めないという合意も必要です。そして、人と近い距離で活動するロボットについては、安全性の面でまだ改善の余地が数多く残されています。

コンパニオンロボット:究極のアプリ

 産業用ロボットやサービスロボットが社会に広く普及し、その姿が日常の風景になっていくにつれ──歩道を走る配送ロボットや、自動運転車のWaymoを思い浮かべてみてください──人とロボットは互いにやりとりすることに、ますます慣れていくでしょう。それと同時に、ロボットは未知の環境に柔軟に対応する能力を身につけていきます。その先に待っているのは、家庭で人とともに暮らす汎用ロボットの登場です。私はそこに、ロボットが果たし得る最も意義深い役割があると考えています。「孤独を和らげる」ことです。

 世界保健機関(WHO)は、孤独を世界的な健康課題のひとつに位置づけています。世界では6人に1人が孤独を感じており5、死亡リスクへの影響は、1日に15本ものたばこを吸うことに匹敵するとされています6。親しみやすく、知的で、ときにはぬくもりさえ感じられるコンパニオンロボットは、社会的に孤立した人や孤独感に苦しむ人にとって、大きな支えとなる可能性があります。特に、ペットと暮らしたくても、それがむずかしい人にとってはなおさらです。コンパニオンロボットは心の支えになるだけではありません。薬を飲む時間を知らせる、家族への折り返しの電話を促す、食料品を注文するといったこともしてくれます。普段は朝7時に起床する人が正午になっても起きてこなければ、コンパニオンロボットが様子を見にいくこともできるでしょう。

 想像をさらに広げてみましょう。ロボットは家庭の中で孤独を和らげるだけでなく、人と人とのつながりを取り戻す助けにもなるかもしれません。社会におけるやり取りは、レジ係にお礼を言う、カフェで注文する、などといったささやかなものでも生活の満足度を高めるという、研究結果もあります7 。ならば、コンパニオンロボットがこんな風に話しかけてくれたらどうでしょう?「少し外の空気が吸いたいな。一緒にお散歩しない?」「昨日出かけたとき、一本向こうの通りにコンパニオンロボットがいたよ。公園へ会いに行ってみない?」

 この意味でロボットは、単にフィジカルAIを進化させているだけではありません。孤独を和らげ、人と人とのつながりを深める。そうした、人を支えるAIの可能性を前へ進めているのです。おそらくそれこそが、AIと人間の関係が目指すべき最も望ましい姿ではないでしょうか。

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