2025年7月29日 | 所要時間: 10分
銀行がお客様の満足度を高めるにはどうすればいいのか、これは非常にむずかしい問題です。米国の銀行の平均NPS(ネットプロモータースコア:顧客満足度指数)は100点満点中たった34点です。
NPSは、顧客に「この企業を誰かに勧めたいと思うか」を調べたものです。
私が所属するMettleを含め、多くの金融機関が顧客ファーストの戦略を掲げている中で、なぜ銀行は顧客満足を得られないのでしょうか?多くの銀行がお客様を喜ばせようと本気で努力していると私は信じていますが、成功しているのはほんのひと握りです。
多くの企業にとって問題なのが、「コスト削減が解決策にならない」ということです。NPSを考案したフレッド・ライクヘルド氏は「適切な人材を見つけ雇用し続けることと、望ましいお客様を新規獲得し確保することには密接な関係がある」と述べていますが格好の人材を採用し定着させるためのコストや、そのリターンを測るのはむずかしいことです。同様に、市場ニーズに合った製品や企業を作ることができなかった場合の機会損失を正しく捉えることも容易ではありません。コストに注目し、それを算定することのほうがずっと簡単です。
Mettleは、イギリスの個人・法人向け銀行のNatWestが設立し展開するデジタル銀行です。当行では、「適正なコストで適正なサービスを提供する」だけではなく、お客様に喜んでいただくことを重視しています(そう、私たちはお客様ファーストを目指しているのです!)実際、いくつかの点では進歩があり、たとえば、口座開設のプロセスをわかりやすくしたり、税金計算のために支払いを分類して、小規模事業者の事務負担を軽減したりしてきました。
その成果も現れはじめており、Mettleは2025年のブリティッシュ・バンキング・アワードで「最優秀ビジネスバンキング・プロバイダー賞」を受賞しました。この賞はアナリストや外部審査員の審査ではなく、お客様からの投票によっても決まるもので、私たちにとって特に重要な結果となりました
しかし、社員一同、やるべきことはまだたくさんあると感じています。フィードバックの手段を複数用意し、お客様と直接対話することで、どこに問題があるのかを特定し、さらなる改善ができるはずです。それは国際決済のサポートや、税務計算の簡易化かもしれませんし、まだ予見できないことかもしれません。いずれにせよ、私たちの使命は、お客様のビジネスの成功を支援することです。
Mettleが築いたお客様中心主義の基盤
お客様重視の銀行を構築していくにあたって、Mettleには大きな利点が2つあります。まず、私たちがゼロからスタートした企業であること。白紙の状態から始めたことで、旧来の金融機関の商品中心のあり方や技術にとらわれず、顧客中心の体制を築くことができました。
これがうまくいったのは、私たちの親会社であるNatWestグループが、商品ではなくお客様重視の、従来とは異なるやり方を自由に試させてくれたことにあります。私たちは2018年に電子マネー口座(銀行免許を取得せずに決済サービスや一部の金融サービスを提供できるライセンス)を備えたMettleを立ち上げ、25年までにNatWest傘下の新しい勘定系システムへお客様の移行を完了しました。現在、Mettleの顧客数は約14万人で、そのうち70%以上がアクティブユーザーです。このおかげで、NatWestは英国において、スタートアップ企業向けの最大の銀行としての地位を確立することができました。まだ設立間もない銀行にとって、驚くべき成果です。
2つ目の利点は、Mettleのターゲット層が明確であること、すなわちソロプレナー(個人事業主)を対象とする法人向け銀行であることです。私たちは、自分の時間を売る人々にサービスを提供しています。お客様は金融の専門家ではなく、専門知識を身につけようという時間も意思もありません。本来の仕事に集中できるように、銀行業務がスピーディで簡単に済むことだけを望んでいます。Mettleは対象とする顧客の幅が比較的狭いので、シンプルなユーザーインターフェースを保ち、お客様がスムーズに仕事を行えるよう個々人に合わせたプロセスを提供しています。
さらに、オンライン会計ソフトのFreeAgentなど、NatWestが提供する関連サービスとの連携が可能である、という利点もあります。FreeAgentの活用法としては、当行ウェブサイトに税金計算機能を設置しておくだけでもよかったのですが、「税金計算を手伝ってほしい」というお客様のニーズにお応えするため、丁寧な寄り添いサービスを設計しました。このサービスによってお客様との関係が深まり、お客様に自信を持って税務申告をしていただけるようになっています。
私たちは社内のリーダーポジションとして、さまざまな形でお客様からのフィードバックを受け取っていますが、Mettle全社としてはお客様の意見を総合的に把握するために、すべてのフィードバックをひとつのチャネルに集約しています。Mettle全社員が消費者レビュープラットフォーム「Trustpilot」やアプリストアのレビュー、カスタマーサービスへのご意見、お客様アンケートの結果にアクセスできるようになっており、それらを積極的に読むよう推奨しています。このようなお客様レポートは、全社のコミュニケーションチャネルでも発信しています。
こうしてお客様の声を全社共有することで、お客様への適切な対応ができた場合には、全社でその喜びを分かち合うことができます。対応が不適切だった場合には、商品、エンジニアリング、顧客対応チーム、そしてリスク担当や財務チームも含め、全社で責任共有します。
お客様からご意見が寄せられた際の対応としては、お客様に回答を返信する「フィードバック循環」が確立されています。これは、お客様の声に基づいてどのような変更を行ったか、ご意見をいただいたのと同じチャネルで積極的にお知らせする、というものです。
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私たちはデジタル銀行として、対面の接客よりも優れた顧客体験を提供しようとしています。
デジタル対応が対面サービスに勝るとき
私たちはデジタル銀行として、対面の接客よりも優れた顧客体験を提供しようとしています。そうすることで、お客様が重要な件で私たちのサポートが必要なとき、あるいはお困りのとき、お客様のもとに駆けつけて、対面で対応することができるからです。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、ごく自然な流れです。NPSが高い銀行の多くは、従来のように広範囲の支店ネットワークを持つ銀行ではないのです。
米国でいえば、米軍関係者とその家族のみを対象とする金融サービス企業、USAA(United Services Automobile Association)がその典型です。米軍関係者は世界各地に駐留しており、どこにいても銀行は必要です。訪れることもないような町にたくさん支店があっても意味がありません。USAAの支店はわずかしかありませんが、NPSは常に70以上を維持しています。
現在、NPSが高い金融サービス企業は、フィンテックやネオバンクに変わりつつあります。私たちから見ると、意外なことではありません。我々の調査からは、誰かに勧めたくなるサービスとは、「簡単」「速い」「スムーズ」なサービスであることが、くり返し示されています。「デジタルでは絶対にできないこと」を除けば、銀行業務においては、人によるサービスが望まれていません。事業のネットワーク拡大支援や、ビジネスパートナーの紹介であれば、人による対応が喜ばれますが、口座開設や支払いに関しては、すべてオンラインで行えるほうが望ましいのです。
顧客ニーズに応える組織設計と「責任ある成長」を生む仕掛け
MettleはNatWestグループの一員ではありますが、社内組織をゼロから設計し直す自由を与えられていました。一方、大手銀行の多くでは、効率性の名のもとに、業務が部門から部門へと引き渡されていきます。製造業や、同じ商品を継続的に販売するような企業であれば、このやり方がよいのでしょう。しかし、金融業界の場合はそうではありません。お客様が銀行を利用する理由は、支払いの受け取りや送金、税金の申告などさまざまです。
このようなお客様のニーズに社員が確実に対応できるよう、Mettleはカスタマージャーニーを重視した組織設計で、お客様に喜んでいただける顧客体験づくりに取り組んでいます。チームは多分野の人材で構成されており、目標達成のために必要なスキルを備えたスタッフが揃っています。カスタマージャーニーの責任者には、お客様対応とバックエンド業務の両方を担当してもらうことで、業務コストと技術的負債の削減を図っています。
可視性や説明責任を高めるため、活用しているのがOKR(目標と主要な結果)です。これは、ひとつの広範囲の目標(たとえば「顧客獲得を増やす」など)を、さまざまな役割を担う大きなチームにそのまま割り当てるという、多くの組織にありがちな方法とは対照的です。目標の幅が広すぎると、現場で生じる細かな課題や、部門間の利害対立が見えにくくなることがあります。たとえば目標が「ユーザー登録を増やす」であるとき、登録数を増やすことだけに集中するあまり、品質や安全性など他の重要な基準が疎かになる、といったことが生じます。
そこでMettleでは、チームごとにOKRをペアで設定するようにしています。たとえば「顧客獲得を増やす」と「不正を減らす」という2つのOKRを設定したチームは、責任範囲とリスクを明確に把握し、双方について責任を持つことになります
また、サービスの管理や保守については、担当チームが直接責任を負うようにしています。開発者がコードを書き、それを品質保証チームやセキュリティチーム、あるいはビジネスチームに渡してテストと導入を任せきりにし、何ヵ月も経って忘れかけたころ、突然コードの変更や更新を求められる――私たちはそういった作業フローを避け、担当チームが、OKRと同様に短期の結果と長期的な持続性の両立を図ることを目指した仕組みづくりをしています。
自分が担当する商品がどんな問題を解決しているかを目のあたりにすると、仕事への愛着が高まるものです。Mettleでは、業務チームと一緒にお客様の利用プロセスを確認し、トラブルの解決にあたり、機能の改善に喜びを感じるようなエンジニアの採用に力を入れています。また、社員全員が時間を割いて小規模事業の助言者を務めることや、スタートアップが集まるビジネスハブに足を運んでお客様と直接会うことも奨励しています。
実験を重視するMettleのカルチャー
Mettleはひとつの実験として誕生し、設立当初は銀行免許ではなく電子マネーライセンスで運営していました。その後、個人事業主向けのデジタル銀行にニーズがあることを実証し、勘定系システムを構築するに至りました。OKRなど、実験を通じて学ぶ当社の企業文化は組織のあらゆるレベルに浸透しています。私たちは、希少なリソースを投入する前に、必ず仮説を立て、実証実験を行うようにしています。
通説に反して、テストと実験を重視すると、むしろリスクが軽減します。うまくいかないアイデアに過剰にのめりこむ前に、見切りをつけられるからです。新しい機能が大成功を収めるかどうか、確実な予測まではできませんが、学びを重視した戦略的な実験は成功の可能性を高めます。
Mettleの今後の成長についても、私たちは実験を指針として進めています。未来の銀行の構築は、終わりのない壮大なプロジェクトです。お客様もビジネスも業界も絶え間なく変化していく中、その時々のお客様のニーズを理解し応えるため、実験も絶え間なく続いていきます。私たちがこれまでに構築してきた枠組み、構造、企業文化が、お客様とともに変化していく支柱となり、お客様の成功や適応力、さらには私たち自身の力を高めてくれると期待しています。
出典