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成功は意識変革にあり:絶え間ない変革の時代にリーダーが目指すべきもの
著者:
ジェシカ・クリーゲル(Jessica Kriegel)
米ビジネスコンサルティング企業カルチャー・パートナーズ労務担当最高戦略責任者
「管理」「権力」「パフォーマンス」に関する古い概念に挑戦する研究を主導し、CNN、Fox Business、CNBC、Bloombergなど多数のメディアに出演。ポッドキャスト番組「CEO Daily Brief」や「Culture Leaders」のホストを務める。初の著書『Unfairly Labeled』では、職場における世代間神話について論じている。
2025年7月29日 | 所要時間: 10分
変革の妨げになるのは、抵抗ではなく「わが社らしさ」への固執です。従来の「行動を変える」チェンジマネジメントでは、持続的な変革は起こせません。必要なのは意識改革と手放しです。
 私たちは、もはや機能しない「古い変革パターン」を、当たり前のようにくり返しています。なにか大きなできごとが起こると、リーダーが変革を打ち出し、組織が一斉に動き出します。コンサルタントが雇われ、戦略資料を作成し、人事異動と組織改編があって、研修が走る。毎回、不気味なくらい、同じような展開です。
 このアプローチは、小さな改善の積み重ねには有効だったかもしれません。しかし、事業モデルの再編や、全社でのAI導入、マクロ経済の変化への対応といった「大きな変化」になると、途端にうまくいかなくなります。なぜなら、本当の変革とは、単に仕組みを動かすことではなく、「意識を変える」ことだからです。
 変化に関する思考モデルは今も、「A地点からB地点へ移動する」という直線的な発想に縛られています。まず現在地を定義し、次に目指す姿を描き、その差分を埋めていく──そんな図式です。企業が変革に迫られたときも同じです。専門家を呼んでギャップを診断し、組織図を組み替え、人材を再教育し、コミュニケーション計画を整える。そして最後は、その変化に乗れない人、乗ろうとしない人を組織から手放します。
 それが、従来のチェンジマネジメントです。変化が「ときどき訪れる波」だった時代には、このアプローチでも十分に機能していました。しかし今日の世界には、もはや固定された「B地点」が存在しません。そこにあるのは、絶え間なく形を変え押し寄せるプレッシャー、期待、そしてイノベーションです。変革を「明確な始点と終点のある旅路」ととらえる発想は、時代遅れなだけではありません。危険です。これから成長する企業とは、チェンジを「やりくり(マネージ)する」企業ではなく、「絶えずチェンジし続ける能力」を育てる企業なのです。
 その能力は、精緻なタイムラインや洗練されたトレーニングモジュールから生まれるものではありません。源泉は、意識の転換にあります。カルチャーの本質は、人々が成果を出すために「どう考え」、「どう行動するか」にあります。しかし多くのリーダーは、行動にばかり注視します。新しいツールを使っているか。新しいプロセスに沿って動いているか。新しい目標を達成しているか。人々が「何をしているか」にばかり注意を向け、「どう考えているか」を見落としてしまうのです。
 カルチャー・パートナーズ社では、行動に過度に焦点を当てることを「アクショントラップ」と呼んでいます。人々の行動が変わっただけで変化が進んでいると思い込んでしまう――幻想であり落とし穴です。四半期の目標として、新しい行動をひとつかふたつ社員に取り入れさせることはできるでしょう。しかし、その行動を起こすためのマインドセットが培われていない限り、やりにくさを感じたり優先順位が変わったりした瞬間、元に戻ってしまいます。
 従来のチェンジマネジメントでは、持続的な変革は起こせません。データでも証明されています。カルチャー・パートナーズはスタンフォード大学との共同研究で、3年間にわたり243社を分析しました。行動変容、つまり行動だけを重視した組織もそこそこ成長してはいます(10.1%)。しかし、カルチャー、すなわち行動の背後にある考えを重視した企業は、4倍以上の速さで成長していました(42.2%)。
これから成長する企業とは、チェンジを「やりくり(マネージ)する」企業ではなく、「絶えずチェンジし続ける能力」を育てる企業です。
 そして、成長を予測する最も強力な要素は、意外なことに「イノベーション」でも、「顧客重視」でも、「説明責任」でもなく、「適応力」でした。新たな戦略、危機、市場の状況に応じて思考や行動を変えるカルチャーを育てた組織は、約50%成長しています。一方、変わらぬ「当社らしさ」にしがみつき、型にはまった考え方に固執する企業の成長率は、17%にとどまっています。
 調査結果が示すメッセージは、明確です。絶えず変化する世の中においては、計画を実行する能力よりも、マインドセットを再構築できる能力のほうが、価値を持つ――従来の前提を根本から覆すような考察です。多くのリーダーは今も、カルチャーを「ブランド」のように扱っています——企業の特長として定義し、発信するものだと。しかしカルチャーは、その企業らしさを表すだけのものではありません。それは状況に応じて思考や行動を進化させる「動的な能力」で、カルチャーが変化に適応できなければ、どれほど優れた戦略も機能しません。
 計画を増やすのではなく、適応力を高めること。コントロールの強化ではなく、変化のために能力を強化すること。継続的な再構築には、これらが必要です。適応力とは、壁に掲げるスローガンではありません。それは筋力のように、日々のリーダーシップの取り方、学び方、そして「状況が変わったときにどう反応するか」を通じて、鍛えられていくものです。
 AIの登場によって、ビジネス変革のペースは加速し、その成否はこれまで以上に厳しく問われるようになっています。テクノロジーの進化はあまりに速く、遅れずに適応できるチームはほとんどいません。しかし、AIは単なる破壊的イノベーションではありません。それを受け入れるカルチャーのある企業にとっては、適応力そのものを押し上げる推進力にもなり得ます。全社で方向性が一致し、説明責任の文化が根づいた明確なカルチャーのある組織は、AI をスムーズに事業へ統合することができるでしょう。タスクを自動化するだけでなく、意思決定を高度化し、迅速な方向転換を可能にし、新たな創造性を引き出せるようになります。AIは人間の適応力を不要にするどころか、その重要性を高めます。ですから、組織カルチャーの価値は、これからもっと高まっていくのです。
新しいビジネスに意識変革が必須である理由
 事業戦略の賞味期限は急速に短くなっています。テクノロジーは人の適応を待たずにどんどん進化していくため、1年前は有効だった戦略が時代遅れになっていることもめずらしくありません。事業計画が優れているだけでは、競争優位は保てません。信念を持って、何度でも方向転換できる人材が鍵となります。
 つまり、組織のマインドセットは、ビジネスモデルよりも早く進化しなければなりません。あらゆる再構築は、まず「思考の前提」との戦いから始まります。社員が変化に価値を感じていなかったり、変化を理解していなかったり、変革を主導するリーダーを信頼していなければ、変革を実行しても意味がありません。マインドセットがアップデートされなければ、スキルアップやコミュニケーションにいくら投資しても、効果は得られないのです。
 リーダーシップが真の転換を見せるのは、まさにこのときです。「戦略から戦術へ」ではなく、「コントロールからデザインへ」の転換です。成功を導くリーダーは、力ずくで結果を引き出す人ではなく、信念を形づくる体験をデザインできる人です。
 カルチャー・パートナーズでは、体験→信念→行動→結果の基盤を「結果のピラミッド」という図式で表しています。
 体験が信念をつくり、信念が行動を生み、行動が結果につながるのです。
 これまでと違う結果を望むなら、その結果を生み出すマインドセットから見直す必要があります。そして、新しいマインドセットを根づかせたいのであれば、社員が職場でどんな体験をしているのか、つまり、何を見て、何を聞き、何を感じているか、何を評価されているか――日々の体験そのものを変えなければなりません。
 社内連携を増やしたい場合も、ただ部門間で会議を行うよう促すだけではいけません。「協力は成功に繋がる」と信じられるような体験を創造するのです。イノベーションを促進するには、ハッカソンのような社内イベントを開催するだけではなく「この会社は安全で、失敗してもクビにはならない」と社員が思えるような体験を創出することです。
 あるクライアント企業で、こんなことがありました。経営陣からチームワークを高められるよう促されているものの、チーム内の協力体制がうまくいかず、営業チームが途方に暮れていたのです。実は問題は、意欲ではなくインセンティブの構造にありました。同社の評価制度は、依然として個人の成果を対象としたもので、業績管理ツールは個人ごとの数字しか見ておらず、表彰制度もトップ成績者個人を称える仕組みでした。しかし、チームの共同案件の成果を可視化し、既存顧客への追加提案が成功したときは皆で称え、チームとしての貢献が報われる仕組みに転換したところ、社員の意識が変わり、行動が変化し、大きな結果につながったのです。
 これが、カルチャーを意図的に導くということです。どう行動すべきかを指示するのではなく、意識を変える体験をつくるのです。それこそが「継続的な再構築」であり、その最初の一歩を踏み出すのはあなたです。
これからのリーダーシップに必要なのは「手放し」
 どこかの時点で、すべてのリーダーは「コントロールできる範囲の限界」に突き当たります。会議を増やし、数字の管理を強化し、組織を組み替え、気迫で押し切ろうとする——そんな従来のやり方が通用しなくなる瞬間が、いつか必ず訪れます。そのとき、卓越したリーダーとそうでないリーダーを分けるのは、強く押し通す力ではありません。「何を手放すか」という選択です。
 これが再構築のパラドックスです。コントロールを手放すことこそが、最も戦略的な一手になるのです。米国の、ある大手公益企業の事例を紹介します。同社は大規模なデジタルトランスフォーメーションの真っただ中にあり、テクノロジーのロードマップも万全、導入するプラットフォームも整っていました。しかし、進捗は完全に止まっていたのです。
 IT 部門とカスタマーサービス部門が、戦略面でも、業務面でも、さらには感情面でも噛み合っていませんでした。信頼は失われ、現場で解決できない問題が次々と上層に持ち上がり、対立へと発展。協力は停滞し、変革は「遅れている」どころか、完全に頓挫しかけていました。突破口となったのは、さらなる統合作業でも、新しい計画でもありません。「手放すこと」でした。
 リーダーたちはひと呼吸おいて、一見単純な、2つの問いを立てたのです。

  1. 社員のどんな意識が、成果の達成を妨げているのか?
  2. その意識をどのように変えたいのか?
 浮かび上がってきたのは、「自分のチームの成功こそがすべてだ」とか「他部署のやつらはあてにできない」という意識でした。同社は、そのような緊張関係から徐々に、「個人の成功よりも、協力して成果を出す方が重要」という意識を根づかせることに成功しました。この思考が、その後すべての転換点となります。
 やがて、IT 部門とカスタマーサービス部門は、共通の目標を掲げ、指標も共同で管理し、協力を評価する仕組みを整えました。かつて縦割りだった組織は、少しずつ“つながり”を取り戻し、業務はスムーズに流れ始めました。その結果、下記のような成果が得られたのです。

  • 従業員エンゲージメントが 22%向上
  • 意思決定のスピードが 50% 加速
  • 南部地域におけるカスタマーエクスペリエンスでJD Power 1位を獲得
  • 市場で最も低い業務コストを実現
 いずれも、ソフトウェアだけではできなかったことです。皆が足並みを揃え、受け入れたからできたのです。そのためには「手放すこと」、すなわち「受け身ではなく受け入れること」でした。時代遅れの信念や厳格な役割、ゼロサム思考を手放すこと、チェンジマネジメントだけでなく組織カルチャーをデザインすること、目的を持って適応すること。これらをくり返し受け入れることが、成果につながったのです。
 今後、変革へのプレッシャーに負けそうだと感じたときは、「何をすべきか?」を自問するだけでなく、
次の問いを立ててみましょう。
「どんな意識が私たちの妨げになっているのか?」
「その意識をどう変えたいのか?」
 マインドセットは強制できるものではありません。リーダーが「継続的な再構築」のカルチャーを社員に押しつけることもできません。しかし、マインドセットが育つ環境をつくること、新しいマインドセットを持つための体験をデザインすることはできるのです。変革は、人に「これをしろ」と命じても起こりません。人が「なぜそれをするのか」に納得し、心から信じたときにこそ起こる。これが、チェンジマネジメントと、人の意識変革を導くリーダーシップとの決定的な違いです。
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