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生成AI導入にチェンジマネジメントが欠かせない理由
著者:
ジュリー・レヴェスク
(Julie Lévesque)
カナダ・ナショナル銀行
情報技術担当エグゼクティブ・バイスプレジデント。同行テクノロジー戦略担当およびオペレーション部門責任者。
IT部門でさまざまな管理職を歴任後、カナダ年金計画投資委員会でマネージングディレクター兼システムおよびデータデリバリー部門責任者を3年間務め、現職に至る。
2025年2月5日 | 所要時間: 5分
銀行業界では、AIが広く使われるようになりました。何百万もの人が信頼を置く金融サービスが、効率化され、精度も高まっています。
金融機関では、バックオフィスから顧客対応サービスまで、AI搭載の高度なネットワーク導入と自動化が勢いよく進んでいます。技術とプロセスの制約が多く、その日のうちにできることが圧倒的に少なかったかつてのIT環境とは、明らかに異なる状況です。
こうした進歩における次の最前線が、生成AIです。大手テクノロジー企業が生成AIをいちはやく取り入れたことからもわかるように、どの企業もこの新しく強力な手段を最大限活用して、効率化を図ろうとしています。その熱意には並々ならぬものがあり、企業は「コスト削減と生産性向上の特効薬」と喧伝されるソリューションを、われ先に手に入れようとしています。しかし毎日のニュースには、成長と世界的繁栄を謳う底抜けに明るい予測と、過度のリスクやネガティブな結果を報じる警告的なものとが混在し、なにが正しいのかわからなくなるばかりです。
現実とは、たいていその両極の中間にあるものです。生成AIは確かに、銀行やさまざまな業界の業務運営を変革し、世界経済と限られた資源に価値をもたらす真の可能性を秘めています。しかし、理論上の予想を上回れるかどうかは、技術導入に周到かつ斬新なアプローチで取り組めるか否かにかかっています。
生成AIの導入に伴う環境の変化を大手企業がどう管理するかは、生成AIがもたらす技術的能力と同じくらい重要です。AIツール導入にあたって、企業が人々の行動をうまく変化させていけるか否かが、将来大きな機会をつかめるかどうかを左右するでしょう。
生成AIの導入に伴う環境の変化を大手企業がどう管理するかは、生成AIがもたらす技術的能力と同じくらい重要です。
最近の事例から学べること
COVID-19でデジタルの需要が増加し、クラウド変革が企業の緊急課題となり、多くの企業が慌てて投資を行いました。大手テクノロジー企業は、新たなAI機能のため強力な基盤を構築し、顧客へ新サービスを提供するにあたって、業務スピードとアジリティを高めたいと考えました。
しかし、一部の企業CIOは、クラウド投資のリターンを十分に得られませんでした。クラウド機能が複数の事業者に分散した結果、複雑性とコストがむしろ増大したためです。クラウドへの支出を抑える動きが広がり、変革を一時停止したり、業務をオンプレミスへ戻す企業も出てきました。
クラウド移行を乗り越えた企業は、まず環境をシンプルにし、データの最適化と統合に集中しました。ところが、多くの企業が、問題の根っこを現場に抱えてました。IT運用チームが、オンプレミス時代と同じやり方でクラウドを扱っていたのです。ここから得られた明確な教訓はひとつ。クラウドの効果は、働き方を技術の進化と同じスピードで変えることができて初めて発揮される、ということです。
カナダ・ナショナル銀行も、多くの企業と同様に、早い段階からクラウド移行に取り組んできました。クラウドファースト戦略を成功させるには、「人を中心に据えること」と「しっかりした変更管理」が不可欠だということを、何度も痛感しながら学びました。クラウド移行は、技術的負債に向き合い、効率的な環境を整えるための絶好の機会です。しかし、それを実現するには、数千人規模の従業員を再編し、新技術や新しい働き方へと動かしていく必要がありました。従来型のインフラ管理から IaCへ移行することは、技術部門にとっても大きな転換です。こうした取り組みを進めて初めて、変革は動き出しました。最終的には、従業員の満足度や業務速度を高め、コスト削減を実現し、顧客満足も高め、変革を成功へと導くことができたのです。
同じような経験を何度もくり返さないよう、生成AIの導入においても、これらの教訓を適用するべきでしょう。技術の変革は行動の変化と並行して進めなくてはなりませんが、AIに関しては技術者グループだけでなく、組織全体で導入を進めていく必要があります。
行動に移す準備
CIOやビジネスリーダーが準備を整えるべきは、まさに今です。生成AIの導入に伴う変化は、業務チームだけでなく、すべてのエンドユーザーに影響します。混乱を避けるためには、信頼された顧客サービスを維持しつつ変革を進められるよう、枠組みと指針を明確に定めることが不可欠です。
まずは、顧客との信頼関係を築くことです。生成AIソリューションを利用しつつ、自分たちのデータがきちんと保護されていると顧客に確信させる必要があります。特に金融サービスなど規制の厳しい分野では、強力なデータプライバシー、知的財産、セキュリティ管理が成功に不可欠で、信頼の構築はいっそう重要です。
信頼を支えるためには、生成AIを社内でどう扱うのかという運用面でも、効果的なコミュニケーションが欠かせません。御社はAIの責任ある利用について、明確で簡潔でわかりやすいガイドラインを整備していますか?コンプライアンスを適切に監視し、問題が発生した際には迅速に対応できていますか?生成AIの 利用・展開・開発 に関する不安や相談を、一元的に受け止める専任組織を置くことも有効です。カナダ・ナショナル銀行では、双方向の対話を重視し、すべての部署が「当社の戦略が顧客価値にどうつながるのか」を理解できるようにしています。複数の視点からフィードバックを集め、合意形成を得ながら、変化に合わせて組織全体で前へ進める仕組みも整えています。
この取り組みで重視しているのは、限界に挑戦しながらも、成功に必要なトレーニングとのバランスを保つことです。以前、当行で導入した新しい生成AI機能が、誤った結果を返したことがありました。調査からわかったのは、原因がプロンプト入力にあったことでした。望ましい結果を得るためには、トレーニングを改善する必要があったのです。
こうしたトレーニングには、これまであまり重視されてこなかったスキルの開発が含まれる可能性があることも考慮する必要があります。生成AIが、コーディングのような技術スキルへのアクセスを広げ、テクノロジーを民主化していく一方で、批判的思考や好奇心といった人文科学系のスキルへの需要もこれまで以上に高まっています。これらのスキルは、従業員が問題を見極め、適切な問いを立てるうえで欠かせないものです。世界経済フォーラムの「Future of Jobs 2025」でも、今後最も重要性が増すと予測されている項目のひとつです。好奇心が育まれる学習文化をつくることで、新しいテクノロジーを受け入れやすい環境を整えることができます。
AI導入とチェンジマネジメントを両輪で進める
生成AIが職場で求められるスキルを変えていることは事実ですが、その一方で、人間による検証の必要性も高まっています。AIのユーザーである社員たちには、プロンプトの入力方法など、AI関連スキルの習得で後れをとると何が起こるのかを、きちんと理解しておいてもらわなくてはなりません。こうした専門知識の構築が、競争力の維持にきわめて重要となるからです。
生成AIが現代の職場で必要とされるスキルを変えていることは事実ですが、このテクノロジーは人間による検証の必要性も高めています。従業員はまた、プロンプトエンジニアリングなど、生成AIに関連する新しい能力でより早くスキルを磨くことができる仲間に遅れをとることの意味を理解する必要もあります。この専門性を構築することは、競争力を維持するために重要です。
こうした現実を理解してはじめて、社員は生成AI導入に伴う変化を歓迎する方向へと向かっていくでしょう。そして、社員が生成AIツールを十分に活用できるようになれば、その価値がはっきりとわかるようになります。日常の業務が変化し、実り多い試みに取り組む機会が生まれてきます。
チェンジマネジメントを優先して進めることで、組織は効率的に前進できます。テクノロジー人材が、技術スキルの習熟とビジネス変革のバランスをとりながら、前向きな姿勢を保ち、好奇心を持ち続け、進行中のデジタル開発への理解を深めていくことが重要です。カナダ・ナショナル銀行でも、日々の業務と変革の取り組みを同時に進めることを強調しています。「歩きながらガムを噛む」ように、仕事と変革を並行して成し遂げる力が求められてるのです。生成AIの導入において、この“しなやかさ”は特に重要です。行動変容を今から加速していけば、その効果は長期にわたって価値を生み出していくはずです。